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――余計な詮索は、するだけ無駄か。
聖一は頭がいい。浩也自身も頭はいいが、彼のはそういうレベルじゃない。
――頭が、良過ぎるんだ。
貴司は『普通に戻る』と言ったが、聖一が普通だったことなど浩也から見たら一度もない。
人間らしさが欠如していて心の中が計れない。冷酷だけれど美しく、人を惹き付けて止まない雰囲気に、彼の周りにはいつも沢山の人が集まって来てはいたけれど、聖一自身が誰か一人に関心を示すことはなく、正直なところそんな存在は現れないと思っていた。
――もし……これが、セイの愛情なら。
そこまで思いを馳せたところで浩也は一旦思考を切る。考えて分かることではないし、念のため、もし目が覚めても動けないように聖一のことは縛ってあるが、なるべくなら意識を失くしている間に全てを済ませておきたかった。
「お前はここから出たいんだな?」
もう一度……確認のために浩也が問うと、貴司ははっきり頷きながら「できることなら」と返事をする。
「分かった。じゃあ、俺の言う通りにしろ」
「どうすれば?」
「今俺が、お前を連れて出てったら、セイはすぐにお前を見つけて捕まえる。それじゃ意味がない」
だから、聖一には悟られない方法をとると浩也が告げれば、神妙な面持ちをした貴司がコクリと頷いた。
本当は、日向が貴司を気に掛けたりしなければ、きっと自分は危ない橋など渡ろうとはしなかった。聖一は浩也にとって、それだけ厄介な相手なのだ。だけど、こんな状況を目の当たりにして見過ごしてしまったら、きっと後悔するだろうと浩也は思う。
だから、貴司には酷な方法だけれど、今の自分に考えられる一番の策を浩也は告げた。
「……分かった。そうしてくれて構わない」
そう答え、思い詰めたようにこちらを見上げる貴司の表情が、似ても似つかぬ日向のものと一緒だけ重なって見え、浩也は一言「済まない」と、声を低くして謝罪する。
「こっちこそ、君に頼ってしまって済まない」
「今更だろ? 上手く行くと良いけど……じゃあ、始めるぞ」
「……お願いします」
頭を下げた貴司の髪へと掌を伸ばしガシリと掴むと、かなり場違いな言葉を返した彼の体は、無意識だろうが震えていた。
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