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――俺は……こんなに。
自分の心の変わりように何より一番驚いた。正直言ってこの程度は今まで何度か経験していて、痛みに喘ぐ姿を見ても心が揺らいだことはない。苦しんでいる貴司の姿に、今まで自分が酷い行いをしてきた自覚がはっきりわいたが、目の前の彼の強い覚悟をいまさら無駄にはできなかった。
――必ず、助ける。
気持ちを込めて額へと触れれば貴司がヒクリと反応する。目隠しには涙が滲み、ペニスは小さく萎えたまま、痛みを堪える彼の姿をこれ以上見ていたくはなくて、浩也は無心に作業へと集中しようと心に決めた。
アナルへ入れた太いバイブをテープでしっかり固定してから、乳首の根元をナイロン製の糸で括ってそれぞれ先を膝へと繋ぐ。
「ぅ……うぅ」
弱々しい呻きが時折耳へと入ってくるけれど、構わずにただ淡々と浩也は手を動かした。
「今は、耐えてくれ」
準備が全て整ってから、苦しげに肩を揺らす貴司へと浩也はようやく声を掛ける。弱りきった彼から返事を貰えるなんて思わなかったが、浩也の予想に反して貴司は小さくだけれど頷いた。
――今は、信じるしか。
痛みにぼやけた意識の中、聞こえてくる真摯な声に貴司は必死に頷き返す。
視覚を奪われ研ぎ澄まされた神経は、痛みを強く訴えるけれど、学生の彼にこれ以上嫌な思いはさせたくなかった。
「じゃあ、俺は行くから」
額を軽く撫でた掌は、ひんやりと冷たくて。貴司がどうにか頷き返すと、立ち上がった気配の後、カチリという無機質な音がやけに大きく耳へと響いた。
「っん……ううぅ――っ!」
それと同時に動きはじめたアナルを塞ぐ太いバイブに、貴司は大きくのたうつけれど、拘束された体では、逃れることなど叶わない。
「うぅっ……ふっ!」
動く度、乳首の根本の糸が引かれて苦悶の声が口から漏れる。あらゆるところに痛みを覚え、新たな涙を流す貴司は、その間に浩也が部屋を出て行ったことに気づけなかった。
――痛いっ……痛…い。
裂けているだろうアナルに加え、引っ張られている乳首や腕が、痛みばかりを拾ってくる。動かなければ少しはマシだと本能が告げてきてはいるけれど、体が勝手に動いてしまい、際限のない責め苦に貴司はただ延々と悶え続けた。
一方、部屋を後にしてリビングを抜けた浩也は廊下へ脚を進め、手足を縛られ倒れている聖一へと歩み寄る。
「起きてんだろ?」
足でコツンと腹をつつくと予想通り瞳をパチリと開いた彼が、浩也を真っ直ぐ見上げてきた。
「ヒナちゃんの報復って訳? 遊び相手じゃなかったの?」
「恋人だ。最初から手を出すなって言ってあったろ?」
「……貴司に、何をした」
「さあな。猫に何かされたところで、いまさら心も痛まないだろ?」
その言葉に、ほんの少しだけ聖一の顔が歪んだのは、敗北の悔しさからか、貴司を想う気持ちからか。
『人間みたいな顔してる』
以前聖一にそう言われたが、目の前にいる彼の表情も、浩也にとっては初めて目にする種類のもので、ほんの僅かだが人間らしさを纏ったそれに、浩也は思わず息を飲む。
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