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「嫌なことはしないけど、貴司の体は悦んでる。本当は疼いてたまんないでしょ?」 「ああっ」  片方の掌が、手首から離れ貴司のペニスをスッと撫でてから陰嚢を緩く揉みはじめた。 「バイブ抜いてる時から、貴司のココ、勃ってたよ」 「そんなはず……」  何の兆しもなかったはずなのに、見ればペニスは大きくなってしまっている。そのことに、ようやく気づいた貴司はただただ驚いた。 「貴司は体のほうが素直だって、分かってるから」  悪戯な色を含んだ瞳に心拍数が上がるのは、どうしようもなくその表情が貴司の心を掴むから。 「痛いのは嫌いだ」 「そう。なら、これからは痛くしない」  移動した指が太腿の付け根を優しい手つきで撫でさする。いつも嫌だと言ってはいるが、それは行為中だけのことで、聖一自身に面と向かってそう告げたのは初めてだった。  ――もしかして、最初からこんな風に告げていれば、或いは……。  そこまで思った所で貴司は思考を止めて頭を振る。例えそうであったとしても、ここを出たいという話に、聖一が聞く耳を持つとは到底考えられないし、それに加えて自分はもう、浩也に助けを求めてしまった。 「んんっ……あぁ」 「気持ちいい?」  上へと移動してきた指が、裏筋を撫でてカリの括れをそっと掴むと、軽く上下に扱き始める。 「やっ……あぅ」  久々過ぎる甘い刺激に細い首をのけ反らせ、貴司の口から紛れもない嬌声があがり始めた。 「何を考えてたの?」  聖一の勘が良いからなのか? 自分の表情が分かり易いのか? どちらなのかは判らないけれど、考えごとをしている時に大抵彼はそう尋ねてくる。 「何にも」 「貴司はいつも〝何にも〟だね」 「そんなこと……んんぅっ!」  言葉の途中で突然胸へと吸い付かれ、体の芯を電気が流れるような愉悦が突き抜けた。ペニスを嬲る掌の動きはそのままに、そっと乳首を喰む唇と、優しく動くその舌に、痛みは薄れて気持ち悦さが体の強張りを溶かしていく。 「怖かったね。本当、ごめん。俺の読みが甘かった」 「なっ……あぁっ……んぅ」  口に尖りを含んだままで聖一が告げてくるけれど、内容なんてとてもじゃないけどまともに聞いていられなかった。それだけ、積み重ねられた日々の凌辱と、浩也から受けた過酷な仕打ちは、貴司の体とその心を脆くしてしまっていたのだ。 「おねがい……取って」  ペニスの根本が圧迫され、じわりと痛みを感じた貴司は強請るように訴える。浩也によって嵌められていたコックリングの存在を、今頃になってリアルに感じ、腰の辺りへと熱が溜まって段々苦しくなってきた。 「取るって、これ?」 「やっっ……あぁっ」  コックリングへ触れた指先が、そのまま後ろに移動していき、ペニスとアナルの中間辺りをグッと強く押してくる。途端、体の芯を突き抜けた熱に、爪先がピクリピクリと宙を蹴った。 「ここ、気持ち良いでしょ?」 「止めて……くるしい……外し…て」  更にグリグリとそこを押されて貴司のペニスが質量を増す。リングが邪魔さえしなければ、今ので既に達してしまっていただろう。 「いいよ。ごめん、貴司があんまり可愛いから、意地悪したくなっちゃった」  通常ならばなかなか解放しては貰えない状況だけれど、今日の聖一は違っていた。それは、悪いことではないはずなのに、霞みのかかった貴司の心は漠然とした不安にも似た感情に包まれる。

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