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――なんで?
逃げると決めてしまった矢先に思いがけず優しくされ、裏切ってしまったような後ろめたさがわきあがるけれど、それ以上は考えている余裕を与えてもらえなかった。
「外すよ」
聖一の甘い声と同時に、カチリとリングが外される。
「あっ……ああっ……んぅっ」
ピンと乳首を弾かれただけで、呆気なく貴司は聖一の掌へと白濁を迸らせた。
「可愛い。貴司」
ハアハアと荒く息を繰り返す貴司の頬へ、額へ、唇へと、キスの雨を降らせた彼は、白濁を纏った掌を舌でベロリと舐め上げてから、うっとりといったような微笑みを綺麗に整った顔へと浮かべる。
――可愛くなんかない。
そう貴司は思うけれど、今はもう口を開くのも億劫になっていた。
「ねぇ……挿れたい。貴司の中に入りたい」
「痛いから……駄目だ」
重い口を何とか開いて貴司は彼へ否を告げる。瞼が重たくなってきて、もう限界だと体が心に強く訴えかけていた。
「……そうだね。今、薬つけてあげる」
珍しくすぐに引き下がった聖一が頭を撫でてくる。それがとても心地好くて、もっと温もりが欲しくなり、気づけば貴司は離れていこうとしている彼の手首を掴んでしまっていた。
「後でいい」
――もう少し、こうしていたい。
そんな風に思うなんて、今日はどうにかしているのかもしれないけれど。
「分かった」
気持ちがきちんと伝わったのか、横向きにされた貴司の体は、彼の温もりに包まれる。そして、安堵からなのか貴司の口から小さな吐息が自然に漏れた。
「ありがとう」
この状況で、そんな言葉を口に出すのはおかしいのかもしれないけれど、聖一の優しさが、一粒の雫となって波紋のように胸へと広がる。
「貴司……愛してる」
いつもみたいに上辺だけじゃない、本当に温かいと思える声が鼓膜を低く揺らす。
――もし……素直に甘えることができたら、何かが違っていたのだろうか?
ふと、そんな考えが頭を過ぎるが、そうじゃないことは分かっていた。「もしも」は所詮「もしも」でしか有り得ない。
――気持ちいい。
彼の鼓動を感じながら、貴司の思考は徐々に曖昧になっていく。
「おやすみ……セイ」
きちんとそう告げられたのはどれ位ぶりだろう? 答える声はなかったけれど、瞼へと触れた柔らかさに、体の力を抜いた貴司は意識をプツリと手放した。
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