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それからほぼ一ヶ月後。
北井浩也は約束通り、貴司を迎えにやってきた。正確に言えば訪れたのは彼の知人という人物で、本人ではなかったけれど。
「起きて」
低いけれど柔らかな、聞き覚えのないその声に、深い眠りに堕ちていた貴司はゆっくり瞼を持ち上げた。
「……え?」
状況がうまく理解できない。そこにいたのは自分よりも年上に見える男性で、精悍な面立ちをしているが、どこか優しげな雰囲気があった。
「驚かせてごめん。北井君に頼まれて君を迎えにきた。君の意志が変わってないならここから出るのを手伝うけど……どうする?」
「あ……あなたは?」
戸惑いを見透かしたような丁寧な説明に、意識がはっきり戻った貴司はようやく思考を巡らせ始める。
「俺は織間歩樹、北井君の友達の兄だ。証明する物はないが、信用して貰えたら有り難い」
「か……彼は?」
「北井君なら学校だ。彼の計画は後で話すから、急で悪いがどうするかを決めて欲しい。実はあまり時間がないんだ」
少し困ったような表情で告げてくる歩樹の姿を瞳に映し、『この人ならば大丈夫』と貴司は心で判断した。目の前の彼が嘘を吐いているようには見えないし、信じなければ、これから先ここから逃げ出す策もない。それに、あれから時間が経っていたから、もしかしたら迎えは来ないのかもしれないと諦めかけていた。だから、突然のことに驚きはしたが答えは既に決まっていた。
「来てくださってありがとうございます。俺は、ここから出たいです」
「分かった。今まで辛かったな」
貴司がようやく紡いだ答えに、神妙な面持ちで返した彼が頭を撫でてくる。
何も知らないはずの彼が放ったその一言に、目の奥がツンと痛んで目元が熱くなってしまったが、貴司はそれをどうにか堪えて歩樹に向かって頭を下げた。
「じゃあ、首の取るから顔上げて」
「はい」
指示に従い上を向くと、大きな工具で首輪の留め具に付けられていた南京錠が壊される。パキッと大きな音の後、歩樹の手が首へと伸びて長い間嵌められていたそれがベッドへと落ちた時、どういうわけか悲しいようなそんな気持ちに包まれた。
「君は、悪くない」
「……え?」
「だから、泣かなくていいんだ」
その言葉に、貴司はようやく自分の頬を涙が伝っていることに気づく。
「あ……なん…で?」
「それをきちんと考えるためにも、君はここを出たほうがいい」
「……すみません」
情けない姿を見せて申し訳ないと謝罪をすると、「気にしないで」と微笑んだ彼に再び頭を撫でられた。
それから貴司は涙を拭い、指示に従って渡された服を着る。
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