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「あ、笑った……本城さんて何才なんですか? 笑うと高校生みたい」 「二十五かな? 誕生日がきてなければ」  佑樹からの質問に、貴司がそう答えると、それを聞いた彼の表情が少し曇ったような気がした。 「今日は十月三日だ。佑樹は、君が日付も知らないことに驚いただけだから」  どうして貴司がそれを気にしたと分かったのか? 佑樹の顔が曇った理由を歩樹にそっと告げられて、貴司が視線をそちらに向けるとやはり穏やかに微笑む姿がそこにある。 「とりあえず、何か食べよう。熱があるから粥がいいな。亮、母屋に行って作って貰え」 「いえ、俺は……お腹空いてないんで」 「分かった、頼んでくる」 『要らない』と伝える前に、立ち上がった亮が足早にリビングから出て行ってしまい、貴司は途中で声を止めた。憎まれ口を叩いていても、信頼しあっているのが分かるやり取りに、なぜか聖一の顔が過ぎって、無意識の内に貴司は爪を噛んでしまう。 「食欲ないのは分かるけど、少しでも、何か腹に入れたほうがいい」 「あっ……はい、ありがとうございます」  スッと伸びてきた歩樹の掌に手首をそっと掴まれて、貴司が慌てて返事をすると、笑みを消した真剣な顔で彼はこちらを見つめてきた。 「本城君さえ良かったら、俺のマンションに来ないか?」 「え?」 「ここは、きみのいたマンションから近過ぎる。俺の家なら都内だから、そう簡単には見つからないって思うんだけど」 「ちょっと、兄さん何言ってんの?」  驚いたように佑樹が話の間に入るが、歩樹はそれを片手で制す。 「どうかな? それとも実家に帰る?」 「えっと、俺、もう一人で大丈夫です。二三日あれば手続きをして、貯金も降ろせるから……その間だけ、お世話に……実家は、遠いんで」 「連絡しなくて良いのか?」 「それは……大丈夫……です」  これでは、連絡を入れる家がないのだと言ってしまったようなものだが、突然のことに上手い言い訳が全く以って浮かんでこない。 「とりあえず、行くあてはないんだね?」 「……はい」  確認するよう問い掛けられ、嘘も言えずに俯きながらそれを肯定しながらも、貴司は心底泣きたいようなそんな気持ちに包まれる。  長い間、社会から隔絶された状況だったのだが、貴司の不在を不審がる人はきっと誰もいなかったはずだ。それでも、分かっていても『行くあてがない』とはっきり言葉にされてしまうと、心がとても痛かった。

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