2 / 3

第2話

◇ 俺は今、最悪の事態に頭を抱えている。 ユニフォームに着替えようと部活用の鞄を開けたものの、忘れてしまったらしく中に入っていなくて、今日に限って体育の授業もなく、ジャージにさえも着替えられなくて冷や汗をかいた。先輩に笑われながらジャージを貸してもらい、それに着替えてグラウンドへと出れば、追い付いた彼が一人だけ違う格好の俺を見て状況を把握したのかクスクス笑った。 部活の様子を見られることは決して変えられない事実なのだから、出だしが最悪なだけにせめてプレーでは良いところを見せようと張り切れば今度は、ジャンプしてからの着地で足首を捻ってしまった。 結果的に大したことではなかったものの、保健室で軽く固定してもらった後、大人しく見学をすることになった。グラウンドの隅にあるコンクリートのベンチに二人で腰掛け、未だ俺を見ては笑う彼を隣に、先輩らのプレーをじっと見つめる。 けれど見ているだけで頭は色んな感情でぐるぐるしていた。失態だらけで恥ずかしいのと、でもそれ以上に彼が隣にいることへ少なからず感じている嬉しさと、それに流されてはいけないと必死にブレーキをかける自分に、そんなことよりも部活の見学に徹しなければという気持ちが……。そうだよ。部に迷惑をかけたのだから、しっかり集中しなければ。 「なぁ、」 「なに?」 「お前のところ、マネージャーって今いる子で全員?」 「……そうだけど。それが何か?」 「いや、みんな可愛い子だらけだなぁって思って、何となく気になっただけ」 無理矢理部活へ向かせようとしていた意識は、結局すぐに彼へと戻された。何を聞いてきたかと思えば、全然嬉しくない質問。うちの部はよくマネージャーが可愛すぎると羨ましがられるが、彼もやはりそこが気になるんだな。 気になる子がいても紹介はしてやらないぞと、言おうとして飲み込んだ。そんなことを言ってしまえば、お前は負けだよと自分で認めたことになりそうな気がして。今の関係を守りたいけれど、今の関係に満足しているわけではないのだ。 「あの、後ろで髪をくくってる人いるじゃん? あの人さっきすれ違った時に見たけど、可愛いよな。先輩? 俺ら一年のクラスで見たことない。あの人、お前のタイプだろ?」 この話題はもうやめにして欲しいと嫌そうな顔をしてあからさまにアピールしたのに彼には通用しなかった。興味津々な顔をして俺を見ると、意味の分からない質問を投げかけてきた。 「……はぁ? 確かに彼女は先輩だけど、どうして俺のタイプになるんだよ」 「だってあの人、目がぱっちりしてたから。お前、そういう子好きじゃん? よく皆がそういう本を広げて見てて、どの子が好みか聞かれた時、いつもぱっちりした目の子を選ぶだろ?」 「……はぁ、適当だよ。あんなもん」 ぱっちりした目、とはまた違う。……睫毛が長い子を選んでいるんだ。お前の睫毛が長いから、俺の好みも自然とそうなるんだよ、とは口が裂けても言えないけれど。 「そうなんだ。でもあんな可愛い人がマネージャーだったらドキドキしないの? なぁ、三谷。お前とあんまり恋愛の話をしたことないけどさ、ぶっちゃけあの人のこと気になってたり、とかしないの?」 「はぁ!?」 「あの人でなくても、好きな子とか、好きまでとはいかなくても、少し気になっている子とか、そういう子……いない?」

ともだちにシェアしよう!