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第2話

 鬼と呼ばれる人々を力でねじ伏せ、犬、雉、猿と共に鬼ヶ島を制圧したのは……一人の少年でした。そう、皆様ご存知桃太郎です。  桃太郎は意識を失って地面に転がっている鬼達を重ねて、簡易的な椅子を作りました。その椅子の上に、桃太郎は脚を組んで座っています。  桃太郎の眼前には、一人の見目麗しい鬼が倒れていました。彼こそが、鬼の頭領です。  目に毒なくらい眩い金髪は土で汚れ、端整な顔立ちも土や傷からの出血で汚れています。血のように紅い瞳は、狂気を孕んでいました。視線の先にいる桃太郎を、射殺すかのように。  対する桃太郎は、艶やかな黒髪を短く切り揃えています。頭領に比べて断然幼い桃太郎は、中性的な容姿をしていました。口角は上げているけれど、大きな黒い瞳は一切輝きを放っていません。  桃太郎は頭領を見下ろしながら、淡々とした口調で声をかけます。 「初めから無駄な抵抗なんかせず、素直に降伏したらよろしかったですのに」  桃太郎の呟きに、頭領は呻きました。 「ざけんな……ッ! いきなり来て暴れ回ったクソガキが、どの口叩いてんだよ……ッ!」 「人聞きの悪い。私は鬼退治に来ただけです。文句があるのでしたら、都の人へどうぞ」  頭領が言う通り、島の住人からしたら――奇襲です。  訳も分からず仲間達を攻撃され、島民達はひとまず抵抗を試みましたが意味も無く……気絶させられました。  それもそのはず。桃太郎は、どの島民よりも強かったのです。  ――それはまさに、災厄でした。  桃太郎は脚を組み直し、頭領を眺めます。 「素敵ですね、鬼ヶ島は……。皆様仲はよろしいですし、頭領である貴方への信頼も厚い。本当に、素敵です」  鬼退治という無差別攻撃をし続けた桃太郎は、ある一人の島民に訊ねました。  ――『この島の長は何処に居ますか』と。  なかなか口を割らない島民達の脚に腕、指や骨を折って体へ訊ね直した桃太郎は、ようやく『頭領』と呼ばれる青年が住む家へやって来たのです。  頭領を力でねじ伏せた後、頭領を守ろうと尽力した島民達を下敷きに……桃太郎は口元だけで笑みを作って頭領と会話をしている。それが、現状です。……余談ですが、愉快なお供達は家の外で桃太郎を待っています。 「こんなに素晴らしい方々を『鬼』と呼ぶなんて……嘆かわしいです」 「は……? 何だよ、いきな――」 「どうでしょう、頭領さん。……私と、取引しませんか?」  訝しむような目を向けている頭領を見下ろしたまま、桃太郎は囁きました。 「私を、貴方の伴侶にして下さい。そうすれば、貴方が大切にしているこの島を……私の命が尽きるまで、守ってさしあげましょう」  ――それは、言ってしまえば愛の取引です。  冷酷な声には、ほんの少しだけ……甘い色が含まれていました。

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