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第3話
鬼の頭領は、困惑しました。自身を見下ろす冷めた瞳と、降り注ぐ冷めた声。
――けれど、言われていることは……愛の告白です。
「……お前、何言ってるんだ……っ?」
「おや。遠回しすぎましたかね」
頭領が困惑しているのも、無理はありません。けれど、桃太郎にはいまいち伝わっていないようです。
「貴方が大切にしているこの島を、私も大切にします。誰かが攻め入ってきたら、守ってさしあげましょう。その代わり、私を貴方の傍に置いて下さい」
散々痛めつけられたかと思えば、突然の求婚……頭領は痛む頭を何とか回転させ、言葉を探しました。
「……断るっつったら、どうすんだよ」
頭領が抱く当然の疑問に、桃太郎は表情を崩しません。
桃太郎は、自身が腰を下ろしている島民の腕を掴み、頭領へ見せつけるよう掲げました。
「爪を剥ぎます」
「――は?」
桃太郎はにっこりと笑みを作り、地に伏した頭領を見下ろします。
「貴方の大切なお仲間の意識が戻り次第、気絶させることなく、爪を剥ぎます。鬼は皆さん、大層働き者でしたからね。爪の垢ではなく、いっそ爪を煎じて都の人々に飲ませましょう」
目を細めて笑顔を作っているけれど、桃太郎は決して愉快そうではありません。
桃太郎は笑みを貼り付けたまま、頭領から受けた問いへ、歌うように答えました。
「なっ、に……言って――」
当然、頭領は戸惑います。それに対しても、桃太郎は語調を崩しません。
「そして、生きたまま皮膚も剥ぎましょう。『鬼の皮だ』と銘打てば、高値で取引間違いなしです。あぁ、そう……数人は綺麗なまま生け捕りにして、奇人変人に配り歩くのもいいですね。鬼は見目麗しい方々ばかりですから、引く手数多でしょう。生きたまま解剖して人体実験するも良し、性欲の捌け口として使うも良し……他にも、そうですね。いっそ、奴隷商人にでも引き渡しましょうか」
「――オイッ!」
頭領が発したのは、悲鳴のような声でした。
怒りに震え、仲間を危機に晒している状況に青ざめ……頭領は忙しそうです。
けれど桃太郎は、にっこりと笑んだままでした。
「守りたいのでしょう? この島が、この島に住む人々が……心から大切なのでしょう? だったら、簡単な話です」
積み重ねた島民から降り、桃太郎は頭領に向かって歩き出します。
そして、目の前にしゃがみ込みました。
「桃から産まれた稀有な存在である私ですが……生涯貴方だけに尽くし、添い遂げると誓います。ですから、頭領さん……私と、結婚して下さい」
頭領は、天秤に掛けます。
自分の人生と、島全て……どちらがより、大切か。
考えて、考えて考えて……やがて、答えを見つけます。
――今だけ、取引に応じてやろう。
――こんなガキ、後で殺せば問題ない、と。
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