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第8話
桃太郎は侮蔑の意を込めた瞳で、鬼の頭領を見上げております。口角だけは上がっていて、頬は依然、赤いままです。
「私達は【仲間】だなんて関係、築いた覚えはございません。勘違いなさらないで下さい」
「何、言ってんだよ……ッ? 一緒にこの島へ――」
「ただの厄介払いですよ」
頭領の困惑を、桃太郎は払拭しようと言葉を紡ぎました。
「あれらは皆、都でも名高い害獣でした。人々はどうにか駆除しようとしたのですが、できなかったのです」
鬼ヶ島への奇襲で、最も厄介だったのは桃太郎です。
けれど、それは桃太郎が規格外の強さだったからであって……愉快なお供も存外強くはありました。ただ、桃太郎の強さに霞んだだけです。
頭領は、押し黙ります。自分を含めたこの島の人々も、三匹には対応できなかったと知っているからです。
「都の人々は先ず初めに、あれらを調教するよう私へ命じました。動物社会は弱肉強食でしたから、私が適任だったのでしょう」
三匹は粗暴でしたが、桃太郎の指示だけはきちんと聴いていたことを、頭領は思い出します。
だからこそ、頭領の中で疑問が生じました。
「だったら、お前が手綱を握っていれば良かったじゃないか」
頭領の言葉は、正論でしょう。
桃太郎はこの島に、お供と奇襲しに来たことを『厄介払い』と言っておりました。けれど、桃太郎がきちんと三匹を見張っておけば、わざわざ都から追い出す必要なんてなかった筈です。
頭領の尤もな言葉にも、桃太郎は蔑むような視線を返し続けます。
「本当に、頭領さんは冗談がお上手ですね。尊敬いたします」
「は……? 何、だと? 馬鹿にしてんのか?」
「いいえ、まさか」
桃太郎が緩く首を横に振り、一瞬だけ瞳を伏せました。そしてもう一度、頭領を見上げます。
――刹那。
――桃太郎の瞳が、揺れました。
「桃から産まれた、得体の知れない生き物……そのような【何か】を信用する者など、この世界にいるとお思いで?」
桃太郎が桃から産まれたということは、求婚されたその日に明かされていたので、頭領は驚きません。
けれど……そこでようやく、頭領は理解したのです。
――厄介払いされたのは、三匹だけではなかったのだと。
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