8 / 23

第8話

 桃太郎は侮蔑の意を込めた瞳で、鬼の頭領を見上げております。口角だけは上がっていて、頬は依然、赤いままです。 「私達は【仲間】だなんて関係、築いた覚えはございません。勘違いなさらないで下さい」 「何、言ってんだよ……ッ? 一緒にこの島へ――」 「ただの厄介払いですよ」  頭領の困惑を、桃太郎は払拭しようと言葉を紡ぎました。 「あれらは皆、都でも名高い害獣でした。人々はどうにか駆除しようとしたのですが、できなかったのです」  鬼ヶ島への奇襲で、最も厄介だったのは桃太郎です。  けれど、それは桃太郎が規格外の強さだったからであって……愉快なお供も存外強くはありました。ただ、桃太郎の強さに霞んだだけです。  頭領は、押し黙ります。自分を含めたこの島の人々も、三匹には対応できなかったと知っているからです。 「都の人々は先ず初めに、あれらを調教するよう私へ命じました。動物社会は弱肉強食でしたから、私が適任だったのでしょう」  三匹は粗暴でしたが、桃太郎の指示だけはきちんと聴いていたことを、頭領は思い出します。  だからこそ、頭領の中で疑問が生じました。 「だったら、お前が手綱を握っていれば良かったじゃないか」  頭領の言葉は、正論でしょう。  桃太郎はこの島に、お供と奇襲しに来たことを『厄介払い』と言っておりました。けれど、桃太郎がきちんと三匹を見張っておけば、わざわざ都から追い出す必要なんてなかった筈です。  頭領の尤もな言葉にも、桃太郎は蔑むような視線を返し続けます。 「本当に、頭領さんは冗談がお上手ですね。尊敬いたします」 「は……? 何、だと? 馬鹿にしてんのか?」 「いいえ、まさか」  桃太郎が緩く首を横に振り、一瞬だけ瞳を伏せました。そしてもう一度、頭領を見上げます。  ――刹那。  ――桃太郎の瞳が、揺れました。 「桃から産まれた、得体の知れない生き物……そのような【何か】を信用する者など、この世界にいるとお思いで?」  桃太郎が桃から産まれたということは、求婚されたその日に明かされていたので、頭領は驚きません。  けれど……そこでようやく、頭領は理解したのです。  ――厄介払いされたのは、三匹だけではなかったのだと。

ともだちにシェアしよう!