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第14話

 気付けば雨も止んでいました。鬼の頭領は桃太郎を探して、近隣を走り回ります。  そこで、一人の青年と会いました。 「あぁ、頭領! 今日はひでぇ雨だったな!」 「あ、あぁ、そうだな。……なぁ、桃太郎見なかったか?」 「へ?」  青年は首を傾げます。そしてすぐに、快活な笑みを浮かべました。 「毎日会うからな、勿論今日も会ったぜ! 最近は随分と大人しくなったもんさ! 島に来たばっかりの頃は頭領の話をした途端殴りかかってきてなぁ……散々だったぜ」 「そ、その時は、迷惑かけて悪かった……!」 「いやいや! いいってもんよ!」  頭領が関係すると過剰に暴力を振るい、暴言を吐いていたという噂や密告を思い出し、頭領は頭を下げます。  けれど青年は気分を害した様子ではありません。 「初めは島の奴等み~んな、頭領の言い付け守って当たり障りのない対応してたけどよ……話してみると、面白い子だよな!」 「……『面白い』?」  予想外の言葉に、頭領は眉を寄せます。 「頭領の話をしたら怒るくせに、頭領の好きな物とか教えたら黙り込むんだよ。頭領が肉好き~とか、意外と冗談が好き~とか……」 「何だよそれ――って……肉と、冗談……?」  ふと、頭領は桃太郎の言葉を思い出しました。 『鶏肉が必要だったので』 『つまり、冗談です』  黙り込んだ頭領を訝しむように、青年が声をかけます。 「頭領? どうかしたか? ……あ、もしかしてそういう話、しない方が良かったか?」 「あ、いや……そういうわけじゃ、ないっつぅか……っ」  言い淀む頭領は気にせず、青年は楽しそうに会話を続行しました。 「まぁ、つまり、あれだな! あの子は相当頭領に懐いてるらしいから、いつでも殺っちまえると思うぜ!」 「……そう、だな」 「あ~、でも……それはそれで、寂しい気もするなぁ……」  瞳を伏せていた頭領は、慌てて青年を見つめます。またもや、予想外の言葉を聞いてしまったからです。 「あの子、怖いし強いし何考えてるか分かんないし、不思議な雰囲気だけどよ……黙ってれば可愛いし、実は狙ってる奴多いんだぜ~? 知ってたか?」 「いや……知らなかった」 「だろうな!」  青年の軽口に、何故か頭領は胸に妙なつっかかりを感じました。  それでも、青年は話を止めません。 「あの子、挨拶は欠かさないんだ! だから日課になりつつあって、それがなくなるのは寂し――あ~でも、いつからか相槌が『そうですね』と『素敵ですね』だけになったっけ。何かあったのかな?」 「…………ふっ、ははっ!」  ――思わず、頭領は笑いました。  青年が驚いた様子で頭領を見ていますが、頭領はそれどころではありません。  常識を知らず、普遍的な行動すらも分からない桃太郎でしたが……頭領への信頼は、本物でした。  頭領が好きな物を積極的に用意し、頭領の言い付けを全て頑なに守り……全てを知った頭領は笑うしかありません。  青年が語る桃太郎は、まるで……どこにでもいる素直で普通の子供でした。

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