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第19話
青年から桃太郎の居場所を聴いた鬼の頭領は、駆け足で目的地へ向かいました。
島民と親しくしている頭領は、誰がどんな性格か……広く浅く知っています。僅かな情報の中でも、桃太郎がついて行ったであろう家の家主は……いい話より、悪い話を聞く方が多い人でした。
杞憂の可能性は捨てきれません。万が一何かあったとしても、桃太郎ならどうとでも切り抜けられます。
しかし、自分自身にどれだけ言葉を重ねてみても……嫌な予感は拭えませんでした。
本来ならば戸を叩き、家主を呼べばどうとでもなります。けれど慌てていた頭領は、戸を蹴破りました。
どうして自分がこんなにも落ち着き無く、慌てているのか……頭領自身にも分かりません。
それでも、止まることはできなかったのです。
「――桃太郎ッ!」
家の中へ入り、名を叫ぶと同時に……頭領は愕然としました。
――生まれたままの姿で押し倒されている、桃太郎を見つけたからです。
――押し倒している島民の指が、桃太郎の秘所を探っているのも……見えてしまいました。
「と、うりょ……ッ? な、何で、ここに――」
「――お前ッ!」
口を開いた家主が訊ねる前に、頭領は瞬時に近寄ります。
そしてそのまま、桃太郎に手を出している男を――殴り飛ばしました。
「ぐぁッ!」
重たい一撃に吹き飛ばされた男が、家にある物とぶつかる激しい音がします。けれど、頭領にとってはそんなことどうだって良かったのです。
「何黙って犯されてるんだよッ! お前はッ!」
頭領に怒鳴られた桃太郎は、瞳を開きます。目が合うと、頭領は押し黙りました。
「……と、りょ……さん……?」
――桃太郎の瞳が、揺れていたからです。
頭領は桃太郎の細い腕を引き、自身が身に着けていた羽織を掛けました。桃太郎は、口元だけの笑みを浮かべ直します。
「わ、たし――私は、言い付けを、守りました……」
「ハァ? 何のことだよッ!」
「暴力を、振るっていません……。当然、罵ってもおりません。……本当です」
返された言葉に、頭領はもう一度……愕然としました。
誰が相手でも、桃太郎なら逃げることができた筈です。しかし、現状は違います。抵抗をした様子は無く、桃太郎は行為を甘んじて受け入れていました。
――それは、頭領の言い付けを律儀に守ったからです。
頭領から掛けられた上着に袖も通さず、桃太郎は頭領を見上げました。
「それでも、私はまた……何か、何かを、間違えたのですよね……?」
今までで一番ぎこちない笑みを浮かべている桃太郎は、震える声で呟きます。
「ごめんなさい」
――それは、あの夢と同じ台詞でした。
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