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第22話

 怒号を飛ばされても、桃太郎は笑みを絶やしませんでした。  それがまた面白くなくて、不可解で……鬼の頭領は更に怒鳴ります。 「俺にどう思われるかとか、そんなこと言ってる場合じゃなかっただろッ! お前は犯されかけたんだぞッ! 危機感とか、もっと重視する点は沢山あっただろうがッ!」  怒鳴り散らす頭領へ桃太郎はたった一言だけ、言葉を返しました。 「ありません」  そう言う桃太郎の瞳には、揺るぎない決意を感じます。  桃太郎の肩を掴む頭領の手が、僅かに動きました。  ――思わず、頭領は訊ねます。 「お前……何でそんなに、俺のことばっかりなんだよ……ッ?」  三匹のお供を殺し、頭領の為だという大義名分を抱きながら島民へ暴力を振るい、自身の身すら道具として扱う……桃太郎がどうしてそこまでするのか、頭領は訊ねました。  ――返ってきた言葉は……あまりにも、単純明快です。 「貴方の傍に居たいからです」  決まり切った答えを伝えている筈の桃太郎に、頭領は違和感を抱きました。  ――その声が、あまりにも……寂しげだったからです。 「慰み者として、この身を数多の島民へ差し出すことで貴方が喜ぶのでしたら、いくらでも捧げましょう。島民に殴られ、蹴られ……私が傷付けば傷付く程、胸がすくと仰るのでしたら、島民へ『殴って下さい』と頭を下げたってかまいません。貴方が望むのなら、四肢も臓物も捧げます」  迷いなく列挙される内容は、あまりにも悲しいものでした。  何故ならそこには……桃太郎の不幸しか描かれていないのです。  ――それは暗に、頭領の望みが桃太郎の不幸だと……そう信じて疑っていないと言っているようでした。 「貴方の傍にいられるのでしたら、私は何だってします。言い付け通り、何をされても笑ってみせましょう」  肩を掴む手を振り払わず、桃太郎が小さく頭を下げます。 「だからどうか……お傍に置いて下さい」  ――その声は、震えておりました。  ――掴んだ肩すらも、震えています。  都でどのような待遇を受けていたのか、頭領は知らないままです。けれど、桃太郎のことを少しだけ理解できた気がしました。  ――桃太郎は誰かがいないと生きていけない……小さな、子供なのだと。  閉ざしていた口を開き、頭領は呟きます。 「――いい」 「……頭領さん? 今、何と――っ」  桃太郎が、息を呑みました。小さな声は、驚愕の色を孕んでいたように思えます。 「そばに、居ていい……だから、もう少し自分を大事にしてくれ……ッ」  自分が何を言って、何をしているのか……頭領自身にも分かりません。 「お前が……俺以外の誰かに手を出されるのは、何よりも我慢ならないんだ……ッ」  ――ただ分かるのは……抱き寄せた桃太郎の体が、とても冷たいということだけでした。

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