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第9話

「お帰りなさいませ、ジーク様。」 そう言ってその人は胸に手を当ててお辞儀をする。 ……すごいキレイな人。 黒い髪に薄い紫の瞳。 男の人にキレイなんて可笑しいかも知れないけど、本当にそう思った。 「そちらの方は?」 ジークさんの影からその人を見ていると、突然その人が僕を見る。 「あぁ、トーマだ。アルバの森でブラックウルフに襲われそうになってるところを見つけて保護した。」 ジークさんはそう言うと、僕の背中を押して前に出す。 「そうでしたか。」 そう言ってその人は僕をじっと見る。 ……なんか、品定めされてるみたいだ。 当然だよね。急に見ず知らずの人が来たら、警戒するのは当たり前だ。 ただ、そんなにじっと見られると落ち着かない。 そう思って、僕は少し目を逸らす。 「失礼しました。」 そんな僕に気付いたのか、その人はそう言って謝ってくる。 「申し遅れました。私はジーク様直属の近衛兵でカノエ・ノーテルと申します。」 そう言ってカノエさんは頭を下げた。 「……ぁ……えと、神原…冬真です。」 僕も名乗って、頭を下げる。 顔を上げてカノエさんを見ると、ポンと音がしてカノエさんの前にウィンドウが開いた。 ーーーーーーーーーーーー カノエ・ノーテル 種族 ヒューマン 属性 氷 水 無 HP 24000/24000 MP 3200/3200 職業 魔術騎士 ーーーーーーーーーーーー カノエさんのステータス? さっきまで見えなかったのに、どうして急に見えるようになったんだろう? そう思って僕は考える。 ………名前 そういえばジークさんの時も、名前を聞いたらステータスが見えた。 もしかして、相手の名前が分かれば見えるのかな? あ、でも、ホーンラビットとかブラックウルフの時は名前が分からなくてもステータスが見えた。 相手が人間の場合だけ名前が分からないと駄目なのかな? 「どうかしましたか?」 僕がカノエさんのステータスを眺めながら考えていると、そう言ってカノエさんが僕を覗き込んでくる。 僕は慌てて首を振った。 「っ!す、すいません。……何でも…ないです。」 そう言って慌ててカノエさんから視線を逸らすと、カノエさんがフッと笑った。 「それより、ジーク様。どうしましょうか。」 カノエさんはジークさんに向きなおしてそう言う。 「彼が無害なのは分かりますが、一度水晶に触れて貰った方がいいかと。」 「……そうだな。」 そう言うと、二人して僕をじっと見てくる。 僕は思わず後退りしてしまった。 そんな僕を見て、カノエさんがクスッと笑う。 「トーマ様、申し訳ありませんが少々お付き合い願えますか?」 そう言ってカノエさんはニコッと笑う。 言葉は疑問形なのに、断れない。 僕は頷くしかなかった。 カノエさんが『こちらへ』と言って、僕は別室に案内された。 ただ僕にはさっきから気になってる事があった。 カノエさん、さっき僕のこと『トーマ様』って言わなかった? 『様』って何!?僕、『様』なんてつけられる立場じゃないのに。 「トーマ様?どうかされされましたか?」 僕がそんな事をグルグルと考えていると、その様子おかしかったのか、カノエさんが覗き込んでくる。 僕は驚いて、思わず後退ってしまった。 び、びっくりした。急にカノエさんの顔が近くに…… カノエさんもキレイだから、見られると落ち着かない。 っていうか、やっぱり『様』ついてるし! 「あ、あの………」 「どうしました?」 「……えと……その………『様』っていうの、止めてもらって良いですか?」 「え?」 僕が言ったことに、カノエさんは首を傾げる。 「………僕、『様』なんて、つけられる立場じゃないので……」 そう言うと、カノエさんはクスッと笑った。 「分かりました。では『トーマくん』でいかがでしょう?」 本当は呼び捨てでも全然構わないんだけど、これ以上我が儘は言えない。 そう思って、僕は小さく頷いた。

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