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第6話
「食事は三食分が冷蔵庫に入っておりますから、レンジで温めて召し上がってください。食器はまとめて洗いますから、流しに置いておいていただけますか。ええとそれから、チャイムが鳴っても出ていただかなくて結構です。どうせ勧誘ですから。植物の水遣りもなさらなくて結構です。ええとあとは……」
琴理の過保護っぷりが止まらない。
さっきからこの調子で、『何もしなくていい』ということを長々と喋っている。
「もう分かったって琴理。早く出かけなよ。遅れるよ?」
「いえ、出発は夕方の予定ですから」
「……じゃあ出がけに教えてもらった方がいいじゃん。まだ昼前だよ?」
「そうですか?……もう冬真様が心配で心配で」
すっと手を伸ばした琴理が僕の頭を抱き寄せて髪を撫でる。
ふん。まあ別にこれはこれで悪くない。
「何か困ったことがあったら、連絡なさってくださいね。可能な限り出ますから」
「式が始まっちゃったら出られないだろ。大丈夫だって。ご飯も作ってくれたんだろ?」
と、いうかよほどのことがない限り、意地でも琴理に連絡する気はない。
陽が傾いて、琴理が出かける時間になった。
当然いつもの燕尾服でなく、平服だ。
執事の恰好をしている時は、凛々しいお兄さんという感じがするけれど、私服だと、優しいお兄さんに見える。
ま、普段から僕には優しいけどな!
「それでは、行ってまいります」
「うん。気をつけて」
最後にぎゅっと抱きしめあって、旅の無事を祈った。……なんか僕まで琴理の心配性がうつったみたいだ。
エレベータに向かってスーツケースを曳いていく後姿を見送って、僕は部屋の中に戻った。
なんか琴理とわいわいやってたらお腹空いたな。結局荷造りまで手伝っちゃったし。
ちょっと早いけど夕食にしよう。
キッチンで冷蔵庫をを開けた僕は思わず目を見張った。
几帳面な琴理らしく、三食分けて置いてあって、それぞれの皿に、レンジに何分かければよいかメモ書きが付いている。
さすが琴理。僕が料理をレンジにかけすぎて焦がすところまでお見通しということか。
メモ書き通りに料理を温めて、食堂で一人で食べる。
うん。美味しい。一回冷めても美味しい料理を選んでいるのか、普段の作り立ての料理と遜色ない。
おかわりができないのが残念だけど、程よくお腹いっぱいになった。
琴理に言われたとおりに食器をキッチンの流しに置いて、夕食終了。
またゲームでもしよっかな。
しばらく遊んで、お風呂に入ると、もういい時間になった。
なんだ、あっという間じゃないか。そろそろ寝よっと。
歯を磨いてトイレに行って、ベッドに飛び込んだ。
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