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第8話

フレンチトーストには紅茶だよね! だんだん調子づいてきた僕は、紅茶も淹れてみることにした。 お湯は電気ケトルがあるから僕でも簡単に沸かせる。 紅茶の葉は……あった。食器棚の一角にいくつか並んでる。 何にしよっかな。うーん。ダージリンのオータムナルにしよ。僕は紅茶の中ではこれが一番好き。 二番目はアッサムでミルクティー。 紅茶の缶ってどうやって開けるんだっけ?僕の指じゃ固くて開かない……。 あっ、なんか、スプーンを使って開けるんだっけ。 蓋の縁にスプーンをひっかけて……!!!!!! カラーン 僕の手の中から紅茶の缶が離れて、中身をまき散らしながら放物線を描いてリビングまで飛んで行った。 「……」 僕はしばらく呆然としたままこの惨状を他人事のように眺めていた。 ああ……これは……大変だなぁ、と。 ヴーン…… しょうがないので、僕は今掃除機をかけている。 なんか、だんだんやることが増えてきてないか? おかしい。僕はフレンチトースト食べたかっただけなのに。 広範囲に撒き散らされた紅茶の葉を掃除機で吸い込んでいく。 スティック型だから僕でも取り回しは楽だけど、コードが邪魔。 こんなこと琴理は毎日やってるんだなあ……。 いや、紅茶撒き散らしたりはしてないだろうけど。 はあ、と溜め息をつきながら、家具と壁の隙間に飛び散った葉を吸い込む。 至るところにダージリンの葉が撒かれたせいで、辺り一面いい香りがする。 これは……綺麗にしても琴理にバレるなあ。 だってこんなに……? あれ、なんか、焦げ臭い!めっちゃ焦げ臭い!! あ、フレンチトースト焼いてたの忘れてた! 焦った僕がキッチンに戻ろうと、ぐいと掃除機を引っ張ると、いつの間にか棚に絡んでいたコードがぴんと張られ、上に乗った大きな花瓶がぐらりと……! ああ、もう。神様、琴理様。 ひとまずキッチンに飛び込むと、フライパンの火を止めた。 フライパンの中は闇だった。全部黒焦げ。 ちょっとはしっこを齧ってみたけど、とんでもなく苦かった。 パンはフライパンにくっついちゃって取れないし。 これは琴理案件だな。僕には無理。 早々に見切りをつけた僕は花瓶のところに戻った。 それはもう派手に割れちゃってる。 所々に大きい破片もあるものの、もとに戻すのは到底無理そうだ。 どうしたらいいんだろう。小さい破片は掃除機で吸って、大きい破片は手で拾う? そう思って大きめの破片に目をやると、いかにも鋭い割れ口がぎらっと光って、僕は身がすくんだ。 だめだ。琴理が帰ってきたら片付ける方法を教えてもらおう。 はあ……。 疲れたな。お昼だし、ご飯食べてちょっとだけお昼寝しよう……。

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