2 / 8
ごちそうさま
徐々に熱が奪われていくような感覚が怖くなくなったのは、いつぐらいだっただろうか。
在咲はぼんやりとそう思いながら、くしゃりと杜月の髪を撫でる。
空腹に耐えていた杜月は、やっとありつけた朝食を貪っている。
普段は小食で遠慮がちだが、今回ばかりは仕方がない。
いつもより勢いのある吸い上げと息継ぎのタイミングが心地よく、在咲は思わず笑ってしまった。
「……なに?」
「いや、杜月もこんなに腹減るんだなって思って」
「そりゃあ、三日も空けられたらさすがにさ」
「そっか。断食だもんなぁ」
悪かった、と在咲は杜月のウェーブのかかった髪をすくいあげてキスをした。
ふわりと香るシャンプーの香り。
また一つ家に帰ってきた実感が湧き、在咲は満たされる感覚を覚える。
「……意外と三日って、長かったな」
「だね……ごめん、もう少し食べていい?」
冷えてきた在咲の手を握り、杜月は申し訳なさそうに尋ねた。
(本当、可愛い人だよなぁ)
くふくふと笑いながら、在咲は握ってもらった手に力を込めた。
「いいよ、いっぱい食べな」
俺が美味いならそれで良いや。
在咲は必死に血液を啜る杜月を見ながら、そう感じていた。
それから、「お前の血、匂いも味も全部好き」と杜月に言われたことを思い出す。
初めて食事を与えた日に、この世で一番美味いと微笑まれたのだ。
ふと在咲の首元から熱が引き、吐息がかかる。
顔を上げた杜月は、にんまりと笑っていた。
「ふふ、最高……ごちそうさま」
ともだちにシェアしよう!