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おかげさまで
それから杜月が職に就くのと同時に、同棲を始めた。
生活を始めて約一ヶ月が過ぎた頃、初めて杜月は在咲の血液を飲んだ。
この上ない甘さと、上品かつ癒される香り。
喉につかえる事なく体内に入ってくる感覚は初めてで、杜月はほうっと在咲を見つめた。
(もう在咲の血しかいらない……)
そう感じた日から、杜月の身体は他人の血液はおろか食物すら受け付けなくなった。
付き合い始めてから八年、杜月は在咲の血液だけで生きてきたのだ。
*
まどろんでいた杜月の耳に、控えめな欠伸が聞こえた。
視線を移せば、まだ眠たげに目を瞬かせる在咲がふにゃりと笑顔を見せる。
「お粗末様でした」
「粗末なもんか。お前以上なんてないっての」
在咲の額に軽くデコピンをして、杜月は微笑む。
それから杜月は、ぽつぽつと言葉を落としていった。
「きっとお前に会うまでの俺だったら、この三日間適当に誰かを食ったり、飯食ったりしてたんだろうけどさ」
「まぁ、じゃなきゃ死ぬもんな」
「でも……今の俺はそんな状況でも、在咲の血しか要らないって思った。他のものなんて死んでも入れたくないって」
杜月は在咲の頬に触れるだけのキスをする。
「俺の身体って、全部お前でできてるんだな」
この身体も、思考も、何もかも全部。
在咲から与えられたもので出来ている。
杜月はその幸福を実感して、在咲の胸にぐりぐりと頭を寄せた。
「お前さぁ……言葉で俺を殺そうとするのやめてよ」
「ははっ! ごめんって」
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