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 少し湿ったハニーブラウンの髪。ちょっと美味そう。蜂蜜、いや濡れてるとメープルだな。メープルっぽい。  そして普通より少し色素の薄い瞳。  二重でまつ毛長いのと、目尻までの山がスっとしている。  甘い色味の生き物なのにクールに見えるのはこの目と、男に違いないが綺麗な顔立ちのせいだろう。美形はなにかと得だ。  三初はこの顔面偏差値のおかげで、社内の女子社員には密かに人気がある。  中身が歯に衣着せぬ物言いと横暴で自由すぎる暴君だから、遠巻きにヒソヒソキャーキャー言われるぐらいだけどな。  バレンタインにチョコを直接はあまり渡されないが、デスクには知らない間に山と積まれるタイプである。  ……はっ! つーことは、俺もイケメンに生まれてたら年一はチョコがタダで食べ放題だったのかよ……!  イケメンに嫉妬はあまりしなかったが、そう思うと顔のいいやつを恨みたい気分になった。甘いものは正義だ。唯一の裏切らない癒し。  チクショウ。なんでコイツがモテて俺はモテねぇんだ? 性格だけなら勝ってると思う。たいていの人類がコイツより節度を持って生きてるだろ。  そういう意味なら下から数えたほうが早いような男だ。  ……性格以外は敗北してるとか、わかりきったことは言うんじゃねェぞ。  いいや、諦めるのはまだ早い。  うんうんと唸りながら三初の弱点を考えている俺を本人が〝またミラクルアホ回路絶好調なんだろうなぁ〟と眺めていることなんて、ちっとも気がつかない俺である。 「三初、お前学校のテストの平均点いくつだった?」 「サバ読み発言の次はテストですか。あー……あんまそういうの気にしたことないですね」 「文系基本何点だ」 「モノによりますけど、だいたいいつも九十いくらとか。暗記はできますが、作文がね……教師によって違うんだよなぁ」 「理系は」 「百?」 「得意科目」 「数学。てか学校のテストで九十以下とったことない」 「もういい、道徳の授業だけ受け直して来い。テメェとは仲良くなれねぇ!」 「ふっ、先輩の平均点は?」 「…………五十」 「うっわ。絶対赤点回避のためにキレながらすっげぇ勉強してそれでしょ」  黙れ。見てきたように当てンじゃねぇよ。これだから頭のイイやつとは仲良くなれないんだ!  ちなみに冬賀の頭は普通なのに要領がよくて、赤点を取ったことがない。  そして教えるのが壊滅的に下手くそだったから、俺の役には立たなかった。  閑話休題。  フンッ、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。  しかしながら三初は人間性を犠牲にしたのかそれほど頭も要領もいいくせに、絶対に自分にと言われた仕事以外はしない。  業務外のコミュニケーションや世辞やオブラート、社会人としてってやつも必要最低限にしか使わない。持ってんのによ。  初めて会った時はもう少し全ての人間に対して完璧な猫を被っていた……ような気がする。いや、初めから全開だったかも。わかりにくいからよくわかんねぇ。  プライベートは知らんけど、出山車以外のやつとつるんでるのも見たことねぇな……実は友達いないのか?  でもそれって、変な話だ。  俺は顔が怖いし態度も悪いし不器用だからそれほど交友関係は広くないが、それなりに付き合いはある。  俺より断然好かれそうな生き物なのに、人を遠ざける三初はよくわかんねぇ。  そう思うと少しだけ、こんな関係になったというのに自分が遠ざけられるのは嫌だな、と思った。深い意味はなく。  好き勝手踏み込むくせに自分はお断りとかムカつくってだけだけどよ。 「──ん?」  もそ、と寝返りをうって三初側に体を向ける。ラブホの広いだけのベッドでも我が家のごとく悠々と寝そべる三初。  元々、コイツの考えていることが、ちゃんとわかったことはなかったな。  人間嫌いなのかと思ったけれど、俺には構ってくる。別に俺が特別とかそんなんじゃねぇ。気まぐれなだけで、自主的に他人に絡んでる時もあったと思う。  心を開かれている気はしないのだ。ことこいつに関しては、言葉が意味を持たない。  行動でお察しとも言うが、行動すらひねくれた動きをする。

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