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第四話 後輩たちの言い分
三初要欲求不満ゲイ発覚事件から、早くも一ヶ月が経ったある日のこと。
『ぎゃっ、お、御割先輩。例の企画大成功おめでとうございます! あと工場の納期ミス、言い負かして割り引きさせたって本当ですか? 決め手は眼光っつう噂が……』
『あ、御割さん。新商品売れ行きいいんですって? よかったじゃないですか! まぁもともと甘味系ならハズさないですけど、ダイエット食品とか縁のないもんも当てるなんて凄いっすね!』
『よお御割ぃ。コマーシャルの女優、あれがきっかけで売れたな。ほら、コマーシャルきっかけってことで気になったやつは絶対見るし、話題性込みでいいの見つけたじゃねぇか。やるじゃん』
「──って、それ全部俺じゃねぇ……!」
食堂であんぱんをかじりながら、俺は怒ればいいのか泣けばいいのか、悩ましい心情を唸るように絞り出して呟いた。
あの日、本心の見えない後輩の隠れた性癖を広い心で受け入れ下手くそながら懸命に言葉で慰めたあと。
アイツは俺を〝ミラクルアホ回路のクソ鈍感ブタ野郎〟と絶対零度の瞳で言い放った。
アンビリーバボー。これが怒らずにいられるか。なんて言い草だあの野郎。
そして三初に腹を立てている俺は、お察しの通りご機嫌ナナメである。
俺が任された企画が、先日の販売開始から大成功を収めたことによって、やたら声をかけられるせいだ。
開発部の涙と怒りの結晶。
スーパーインスタント食品。
もの自体は売るのが難しいジャンルだろうに、話題性が抜きん出て売上は好調だった。
三初に抱かれたり虐められたり嫌がらせをされたりしている裏で、リーマンの俺は仕事に勤しんでいたのである。
あれこれと必死に戦ったおかげで付いてきた結果に、課長も部長も笑顔で俺を労ってくれた。
それなのになんでふてくされてるのかって? 言ったとおりだ、コンチクショウ。
確かに、納期遅延は向こうの計画ミスなのに半端な態度を取られた上、追加料金の話をされたので食い下がったのは俺だ。
だが、あわや論戦かと思われる殺伐とした空気をブチ壊して丸め込んでゴリゴリ言い負かし、にこやかにサクッと言質を取って書類にサインさせたのは三初だ。
となれば当然だが、コマーシャルの女優を選んだのも三初である。
企画会議であーだこーだ言い合っていた俺たちをつまらなさそうに見ていた三初が、しれっと推したのがその女優だった。
なんかそういうのに詳しいツテがあるだとかで、舞台で人気が出始めているがまだ表に出ていない女優を、教えてもらったらしい。
それを知っていただけなら俺たちも半信半疑だが、伸び代を裏付ける根拠を書類でまとめてきやがったものだから逆らえなかった。補欠の女優も用意しておくあたり抜け目のない男だ。
一部界隈で相当人気となれば周知させることもできるし、女優側もノリ気で協力的だし、意外性もある。
んで、そういうのを考えると。
新商品の売れ行きがいいのは、つまり……そういうことだろうが。
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