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「ああ、真。こっちこっち」 「じゃねぇわ。お前出山車を粗雑に扱ってやるなよ? 友達だろうが」 「純然たるじゃんけんの結果ですよ。アイツが俺に勝ったことないだけで。個別に持っていくと効率悪いですし」 「それ大義名分だろ。ダチは大事にするもんだぜ、なぁ冬賀」 「おう。俺もシュウを大事にしてるし、シュウも俺を大事にしてるぜ」  俺が話を振ると、冬賀は笑って頷いた。  俺の交友関係は狭く深くで、大勢と群れたりしない。冬賀は不特定多数と仲がいいが、深い仲間は少ない。  べったりひっついたり甘やかしたりしないが、俺たちはちゃんと仲がいいのだ。 「へぇ……」  俺以外のやつへの扱いがあんまり横暴な振る舞いに発展する前に、釘を刺す。  けれど三初は目を細めて一言声を出しただけで、ちっとも俺の上から避けない。  先輩の注意も馬耳東風。  いつものことだが、取り敢えずいい加減俺の上からどけやがれ。  するとちゅるん、とそばを全て啜り終えた冬賀が、ニカーっと笑った。 「あれ。ミハの愛情表現はまったくわかりにくいけど、ちっとはわかりやすくなったなぁ」 「は?」  おいコイツなに言ってンだ。  三初のどこがわかりやすくなったのか。そして表現されるだけの愛情があったのか。俺には皆目検討がつかない。  だと言うのに。  俺の肩の上にいる蜂蜜色の猫はニンマリと笑い、目の前の赤毛の熊はへら、と目じりを垂らす。 「ね。言われなくとも、俺なりに大事にしてやってますし。最近は、わかりやすく愛情表現もしてるでしょう?」 「してるなぁ。なぁどーゆー心境の変化だ? ちょっと前からやたらオーラ出てたけど、今の素だろ」 「くくく、認めたくない感情を自覚したんですよ」  なんなんだよ。なにをわかりあってんだお前ら。マジで。いつもながら謎である。 「ちょ、要なんで先輩たちのとこいんのっ? なんでじっとしててくんねーの!」  そんな空間に人混みを掻き分けてやってきたのは、三初に放置されて迷っていた出山車だ。間抜けな様子で人畜無害にやってくるものだから、多少気が抜けてしまう。  たぬきが来たところでなんの役にも立たねぇけどな。いないよりはマシだ。主に俺のメンタル的に。  ムスッとする俺が視線を向ければ肩を跳ねさせ、出山車は引きつった顔で「こんちわです〜……」と挨拶をした。  それから身を屈めて俺に近づき、小声でコソコソと尋ねる。 「要、なんでか満面の笑みを浮かべてやけに楽しそうですけどなんかありました?」 「あぁ? どこが満面の笑みだよ。めちゃくちゃニヤニヤしてんぞ。三初が冬賀と話をするといつも謎にわかりあってて俺には理解できねェ……」 「や、俺もアイツの機嫌クルクル変わるから理由までは知らないです! でも機嫌いいですよ、今」 「? いつもこんな感じだろうが」 「ってもまぁ御割先輩といる時はたいてい機嫌が、うわっ!」  グイッ! と突然出山車の襟首が掴まれ、俺から引き剥がされる。  なんだと思い顔をあげれば、冬賀と話していたはずの三初が俺を見下ろしていた。 「丸聞こえだからな? 死ぬか、真。で……先輩は俺が乗りかかってんのに、なんでそっちで話すんですか? なんのためにかわいげない先輩を肘置きにしてると思ってるんです」 「いや暴論すぎるだろ!?」 「ごめんなさいすみませんだから離してください俺肩グイーンなってるから離してくださいお願いしますぅぅぅぅっ!」 「わはは、なんともわかりやすいミハ論だな」  ──いやわかりにくいしわかりたくねェわッ!!  気まぐれで自由な猫に、呑気で快活な熊と、不憫で失言多めのたぬき。  それらに振り回される俺は、さしずめ飼育委員だろう。いい歳した大人の男が四人も集まって昼飯すらまともに食えねぇのか。嘆かわしい。  そう思っていると、猫は「アンタはドーベルマン顔した中身豆柴の駄犬だろ」とクツクツ笑った。  ……たいへん嘆かわしいドチクショウ!

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