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「どこも触ってないのにケツにビーズ突っ込んだだけでやや勃ちできるとか、すっかり仕上がっちゃってまあ」 「全てはどっかの大魔王が人のケツを散々開発したせいだろうが抉れろ、ってかこの状態やべぇだろ。普通に外歩けねぇ。どうしてくれんだよコレ。爆弾処理班レベルでそっと抜けよコレ」 「はいベルトしめてー」 「待て待て聞け俺の話を聞けコラァ……ッ!?」  入れたものは抜かなければならない。  だというのにさっさと俺の下着とスラックスを元通りに上げた三初がベルトまでギッチリと締めたので、遊びの度を超えた暴挙に俺はギョッ! と目を剥いて三初の手を止めた。  なんで何事もなかったかのように元通りにしてんだコイツ。俺の中に凶器入れっぱなしだろうが。このまままともに歩けると思ってんのかコノヤロウ。  ペンギンみてェなよちよちウォークしかできねぇよ違和感バリバリだろッ!  そんな全力の待ったをかける俺だが、三初は相手にもせず聞こえないフリをして、俺の衣服を綺麗に整える。  乱すのもクソ早いけど整えるのもクソ早ェなコノヤロウ。 「クッ……ソッ、マジでこれ、無理だって言ってる……!」  ゴツン、とドアの窓に額をぶつけて、悪態を吐く。  倒れたリクライニングがグインッと元に戻されるが、背を預けずに窓の冷たさで茹だった頭を冷やすことにした。主に怒りで、だ。 「まーそう言わずに。意外と我慢できるかもしれないでしょう? ほら、明日も出勤ですし」  ドゥルンッ、とエンジンが入る音と同時に、他人事のような呟きが悪意百パーセントで揶揄う。  そうだよ出勤だよ。だからコレでスイッチ入れられてもお前のねちっこいセックスを強請るわけにはいかねぇんだよちくしょう。  当たり前だが、俺の胸中はちっとも穏やかではなかった。  ほんのちょっとでいいから本気で殴りたい。なるべく渾身の力を込めるから殴りたい。 「っ……はぁ……っ」  エンジンの振動がシートから下半身を伝って、それだけで妙に落ち着かない気分になる。  振動を意識すると余計に中のビーズが存在感を増してくるので、じっとしているだけでも知らん顔なんてハードミッションだ。 「アホか……! こんなもん入ってたら萎えねぇだろッ。いつ抜くんだ、いや、自分で抜くから家に下ろせよッ」 「却下。抜くのは、んー、お好み焼き食べてからかなぁ……」 「かなぁってなんだテメェ一回ケツ裂けてド派手に死にやがれ」 「はいはいいつかね」  ブツブツと唸りながら文句を言うが、三初は馬耳東風。車はスムーズに発進し、何事もなかったかのように駐車場を抜けていく。  ハァ……と吐いた深い溜め息が熱を持っている気がした。  自分の腕をギュッときつく掴む。  クソ、完全にオモチャにされてるじゃねぇか。  三初のことだから、こんなことをしたところで害意はない。たぶん。  どうせ俺が慣れない異物感にソワソワと落ち着かない様を眺めつつ美味しく飯を食うだけの遊びだろう。  普段のように中を擦られるわけでもないので、そのうちこの状態にも多少は慣れるはず。慣れるまでは地獄だが。  慣れりゃまぁ、問題ないっちゃない。 「っ、……」  道路の凹みを通過した車体がガタンッ、と揺れ、思わず息を詰めた。  反射的にギュッと内壁を収縮させてしまい、毒のような快感が染み渡る。  どうも官能が引かない感覚に、俺はもどかしい掻痒感を感じた。  な、んだ、運転中で揺れるからか……? おかしい、全然慣れねぇ。それに冬なのに暑い。  もしかしたら、また風邪をひいてしまったのかもしれない。

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