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フカフカとした質のいいスヌードを手に取る冬賀へ「それが彼女に合いそうなら後は店員に聞け」と告げてから、俺はふらりと店の外に出て壁際のベンチに腰を下ろす。
なんてこった。
本日の三初の冷たさは、冷えるべくして冷やしたものだったらしい。
膝に肘を置いて組んだ手に額を預け、うなだれながらどうしたらいいかを考える。
ご存知俺はデリカシーがない。
つい乱暴な物言いをしてしまうし、気を遣うとか優しくするとか、やってみてもうまくできない。
三初といると楽しいというか、気が楽でいいと思うのは、それらを頑張らなくていいところだ。
『先輩って……抱かれてる顔は、意外とカワイイですね』
『だから資料作ってあげたじゃないですか。課長褒めてましたよ』
『うん……俺やっぱ先輩のそういう顔、ソソるっぽい』
『これがまぁ、俺の素?』
『要するに、先輩が四苦八苦するお粗末なお悩み相談なんか、求めてないです。悩むのも結構楽しいし、俺の楽しみを誰かに分けたりしないんで』
『へぇ。言質取りましたからね? 先輩』
『お前はこれが欲しいのかもしんねーけど、欲しがっても未来永劫無理なの。これはもう俺のなの。俺がそう決めたから』
『俺が責任取るんだから、他の飼い主にこういうことされても、流されちゃダメですよ?』
数々のセリフが今になって鮮明に思い出され、俺の脳内をフワフワと三初が浮かんでは消えていくシンキングタイム。
──つーかお前本当にその子のこと好きなのかぁ?
ついさっき言われた冬賀のセリフが、そのフワフワを一掃した。
「……気が楽だからだったのかも、しんねぇよな……」
顔を上げて、ボソリと呟く。
モール内を行き交う幸せそうな家族や恋人たちを眺めて、壁に頭を預けた。ゴツン、と痛い音がする。
男が好きだなんて、やっぱり勘違いだったのかもしれない。
だってほら、俺は男に恋したこともなければ、三初と違って男でも女でも無関係な性癖というわけでもなかった。
女が相手だと今までのように勘違いやすれ違いが多いだろうし、意地っ張りな俺は見栄を張って苦手なことを頑張り続けなければならず、自分を偽らないといけないのだ。
仮面をかぶることが本当に向いていない。
社交辞令すらうまく言えない。
俺が良かれと思って考えてしたことは、たいてい空回る。
それは結構辛いだろ?
だから俺は気が楽な三初への好意を恋だと思い込んだのかも。体の関係なんかがあったら、そっち方面に考えるのも容易だ。
アイツといると無理をしなくてもいい。
構わないと言われていて、相手も取り繕って偽物のやりとりをしない。寄り添う相手として、三初は完璧。
それが突然噛み合わなくなったから、俺はきっと苛立ちとか負けん気で勝手な態度が気に食わないだけだと思う。
居心地のいい関係がなくなるから、こんなに焦ってるし、混乱してる。
いつからか、プライベートを明け渡すことに警戒心がなくなった。
それも全て気が楽だからだ。
意外と趣味が合って二人での行動が楽しいと思ったのも、思い込み。
俺が触れた時に珍しく表情を変えて、初めて見る顔がイイと思ったのも。
首筋に触れられて瞳をのぞき込まれた時、ドキ、と鼓動が早まったのも。
体の不調に気づかれたことも。
嫌味で覆わないと心配すらできない難儀な悪癖をかわいいと思ったのも。
一人きりにならないと弱音も吐けない面倒な俺を見捨てずに戻ってきてくれた時の、泣きそうなくらい嬉しかった気持ちも、全部早とちり。
だから。
「っ……」
フロアの大穴を挟んだ向こう側の通路で、道行く人の群れの中に、俺の知らない綺麗な男と二人でいるアイツを見つけたって。
ちっとも胸は痛まないわけで。
「……っていうのが全部、嘘になるわけで」
ならば俺は間違いなく──三初 要に恋をしているわけなのだ。
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