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はんなりスマイルで口八丁手八丁、結局マナーだなんだと言われ、まんまとシャワーを浴びたわけだ。
あとはこう、セックスはしないが多少道具は使うから、と中も綺麗にするよう言われて準備もした。
やり方は三初とオモチャ契約を結んだ時に教えられたので、一人でも問題ない。悲しきかな、むしろ慣れている。
それほど手間もかからず、シャワーついでにボディソープを塗り込んで、中と入口を綺麗にした。
どこかの誰かさんのお陰様で日々快腸だからな。俺の中は基本的にスッキリしている。
けれどたった数分でもこういう作業をしていると冷めてきたというかなんというか、めんどうな気分になってきた。
なんつーか……三初といるとあいつの相手で手一杯だから、俺の感情や思考は山あり谷ありって感じなんだよ。
恋愛脳のヘタレにされてしまうのは、三初が相手だから。
そうじゃないなら、なんだか今からなにをするだとかそのためのいろいろだとか、全部がつまらなく思えてくる。
付き合ってから、三初とセックスをしていて〝つまらない〟だなんて思ったことはない。
むしろ、あいつといるとドキドキするんだ。いろんな意味でもよ。
俺もあいつをドキドキさせられていればいいけれど、そんなのゼッテェ有り得ねぇだろ。いつも俺ばかり。
そう思うと、腹が立つ。
結局はその腹立たしさを原動力に奮起し、腹立たしさは俺の脳をバカにした。
そう。バカにしたのだ。
ムカムカとパンイチで部屋に戻ると間森マネージャーが「ここに四つん這いになってください」とはんなりスマイルで言うので、俺は怒りに任せて、黒いプラスチック素材でできたカマボコのような台の上で四つん這いになった。
馬の腰的な形のヤツ。
ロデオみてーで跨りやすいな。
とかなんとか関心しているうちに、なぜか土台の金属プレートに付けられた拘束具でガッチャンガッチャンと固定される俺の両手足。
噛まされるリング型の口枷。
唯一の布をズリ下げられてむき出しになる臀部。もといケツ。
「……ん?」
なんかおかしくね?
間森マネージャーが背後でガサゴソと小物を漁る音を聞きながら、俺はマヌケに小首を傾げる。
具体的にはなんつーか据え膳っつーか獲物っつーかあわよくばヤれそうな体勢っつーか──貞操の危機っつーか。
「ふぉ……ッ!? ぅ、ゔーッ!」
バカな俺がようやく気分次第でどうとでもされる状況だと気づいた時には、しっかり枷に繋がれ、器具から降りることも立つこともできない状態になっていた。
どうやらこの謎の器具は強制的に四つん這いにさせて、身動きを取れなくする器具らしい。──いやだからなんだよ聞いてねぇよこんなもんッ!
「ふッ、あうぇ……ッ」
自分の状況を正しく理解すると、背後にいるのだろうマネージャーに尻まで隠せず見られている状態が恥ずかしくて、殺したくなった。
これで気持ちいいのがマゾヒストなら理解不能だ。苛立ちしか感じない。
「ウフフフフ。あっさり信じちゃうなんて御割さんったらピュアなんですから。ね? 事前にどんな約束をしていようと、こうなったらなにされても文句は言えませんでしょう? 要くんはそういうことを教えてくれなかったんですかねぇ……可哀想に」
「ング、うぅへぇぁ……ッ」
「でも安心してください。御割さんがマゾかどうか、私がちゃーんと試してあげますので」
──安心できるかァッッ!!
乗馬鞭のようなものでペチペチと後ろから腿をなでられながら、俺は言葉にならない唸り声を上げた。
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