（ふっふざけんなド変態野郎ッ！） 　俺を背後から視線でなぶっている間森マネージャーの声に、言葉にならない怒声を浴びせた。 　間森マネージャーは変声機付きのマスクを被って訴訟対策をしているが、モロバレのモロバレだ。 　それに一刻も早くこんな状態から脱しなければ、俺はマネージャーに弱みを握られ、それを三初にバラされる可能性がある。 　着衣ではなく全裸でＳＭ器具に乗り他の男にいたぶられる状況を知らされてしまえば、満場一致でどんな恋人でもキレるだろう。 　俺が三初のそんな状況を耳にすれば、なぜそんなところに秘密裏に行ったのかと問い詰める。 　問い詰めた後は、行ったとしてもどうして全裸で他の男とそんなプレイをしたんだ、と激昂する。 　恋人相手なのだ。 　感情的になるが、それを三初にされると、困るのだ。 　マンネリ回避のためゲイバーに来ていることがバレるより、断然困る。浮気だと言われても仕方がない。 　バレたら命はないのは確かだろう。 　怒った三初が俺をどうするか、検討もつかなかった。 （ぜ、絶対怒るだろアイツ……ッ！） 　焦る俺は寝起きのような倦怠感と意識の揺らぎを感じつつも、必死にグルル、と唸り声を出して威嚇する。 　するとマネージャーは、俺の尻をパァンッ！　と鞭で打った。 「ふぁ……ッ！」 「かわいい声……さてさて、御割さんがマゾがどうか、試して差し上げますね」 　穏やかなテンポで機械音声が告げる。 　それはすこぶる不穏なセリフで、全身から血の気が引く。 　そして逃げることは叶わず──無邪気な嗜虐ショーが開幕してしまった。 「うッ…！　ふッ、ぅッ、ッ……！」 　バチッ、バチッと続けざまに鞭で打たれ、俺は切れ切れと悲鳴を上げて身悶える。 　暖色のルームライトが照らすムーディな室内には、俺の悲鳴と破裂音が混ざりあって響く。 「ぐッ、ッ、ふッ……ッ！」 （くそ……っ、痛ぇし、全然気持ちよくねぇし、こんなの嫌だ……っ） 　鞭打たれながら俺は悲鳴を噛み殺し、ただ殴られるだけの暴虐に耐えた。 　三初にもよく鞭で打たれている俺だが、間森マネージャーには何度打たれても、痛みしか感じない。 　真っ赤に染まっていく尻が、裂かれるような痺れをもたらす。 　それでもいつもの叱られている、という感情もないままでは、理不尽な暴力としか思えなかった。 　叩き方も、三初のやり方とは違う。 　蚯蚓脹れを生み、それが裂けつつある闇雲な殴り方では、ただ痛いだけでそれ以上の感情を引き出さない。 　せめて人様を無理矢理なぶって見せるなら思いっきりなりきってやればいいのに、お遊び感覚なんだろう。 　そういうのが余計にムカつく。 　打たれ損だ。 　そのくせ「痛いのがいいんですよね」と嘲られるのが心底屈辱的で、悲鳴ごと口枷を食い締めた。 　マゾってのはキツくやられんのがイイんだろ？　それを確認するなら、半端な態度は意味がねぇじゃねぇか。 　アイツはもっと遊びのような顔をして、俺を嬲ることは容赦しない。本気でやる。 　そしてアイツはいたぶる相手である俺を、身が焦がれるほどよく見ているのに。 「ぅッ…ふ、ぅ……ッ」 　心が満ちない。 　一服盛られて約束と違うことをされる怒りとはまた違う、もどかしさ由来の怒りが湧き上がってきた。