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40※微
「ぁっ…ぁっ…ん、ぁ……」
キュゥ、と中の指を締め付け筋肉を痙攣させながら、目の奥が浮つく快感だ。
今のは、気持ちいい……と、思った。
満たされていく慣れた快感。
相手が誰か、忘れてしまうものだ。
乱れた呼吸を整えられない俺の中をクチュクチュと捏ねながら、背後でクツクツと喉を鳴らす笑い声が聞こえる。
アホらしいと嘲笑う、冷えきった声。
「かんたんだね。マゾヒストって」
冷たい語気の嘲笑は、喘ぎながら溶けていく俺を揶揄し、とびきり優しく蔑んだ。
途端、俺はサァ、と血の気が引くような心境になった。
言われた通り、さっきまでは満足を得られなかった俺の体は、やはり単純だったからだ。
嘲笑は快感に沈み込む頭と隔離された胸を、ズキン、ズキン、と酷く痛ませる。
(やめろよ……そんな言い方で、三初みたいな言い方で、責める権利なんかお前にはねぇだろうが……)
敏感な内部を巧みに犯されて達した後に、言葉で詰られ、俺は全身を恥辱に染め上げながら、心で吠えた。
だって、目隠しをされて、変声マスク越しの声を聞かされる俺にとって、他の全てが鋭敏になっているのだ。
なのに触り方や言葉の色までなんの悪趣味か三初を思い出すようにされると、頑なに拒絶と強情を張っていた心が、甘ったれに緩んでしまう。
「っろ……っ」
「なに?」
絞り出すようなか細い声だったのに、マネージャーは中を追い詰める指の動きを止めた。
俯かせていた頭をフルフルと力なく横に振って、俺は鼻をすすり、唇を噛む。
「お、俺は、マゾじゃねって、……言ってるだ、ろ……っ」
「……あーあ」
ゴロゴロとざらついた涙声で訴え、我慢ならずに目隠しの下を僅かに潤ませた。
器具に乗せた腹筋をひくつかせ、指を丸めて枷を鳴らし、泣きそうになりながら逃げようとする。
涙は流さない。
滲んでいるだけで、目玉に広げて誤魔化し、耐える。
「なんで泣くんですか。泣きたいのこっちでしょ」
「な、泣いて、ねぇ……っ、んぐっ」
けれど埋め込まれたままの指が鉤爪状に曲がり、持ち上げるように引っ掛けられて押さえ込まれた。
「くそ、っお前なんか、お断りだ……ッ俺は、俺はあいつに、っ……み、三初に、……ッ」
「三初に? 飽きたの?」
「違っ……! ゲホッ……だってあい、あいつが……っマゾはつまんね、って、俺、っ……つまんね、の、っ嫌だ……嫌だった、から、こんなとこまで来たんだろぉ……」
カタカタと震えながら要領の得ない訴えを起こすと、初めて背後で「は……?」と戸惑い混じりの声がする。
俺はそれに気が付かない。
ただ淡々と責められた正論に不器用な弁明をして、潤んだ瞳がこれ以上濡れて粒にならないように、務めるだけだ。
「も、なんで…っあん、な、触り方……っ、さ、さっきまで、全然平気だ、った……っの、に……イライラして、物足りなかった、のに、ちくしょう……ぁ…嫌だ……っ」
八つ当たりのような言い方で思うままにクダを巻き、這いつくばってへちゃむくれる。
確かに悪いのは俺だ。
言いくるめられやすいのはわかっていたのに、油断していた。
でもそもそも、俺は三初に飽きられたくなかったから、頑張ったのだ。
本当は痛いのも恥ずかしいのも、気持ちいいかもしれないが、好きじゃない。
ムカつくし、嫌だ。
だからマゾじゃない。つまらなくない。
俺が普段不本意ながら悦んでしまうのは、それが惚れた男に強いられたり、与えられる刺激だからだ。
気持ちよくても三初じゃないと物足りなくて、三初じゃないと心は動かないことを、今の俺はちゃんと理解している。
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