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「あのね、シュウちゃんのカレシくんは〝隠し事をされた〟ってことよりも〝男を性的対象にする人が集まるゲイバーって場所へ知らない間に自分の彼氏が一人で行っていた〟ってことについて怒ってたわけよね?」 「そりゃあ、まぁな」  そこはわかるのでコクリと頷く。  たぶん、そこへ行くなんてやましいことがあるのかと疑ったのだろう。  詳しい動機は聞いていない。三初はメッセージの既読がつかないから冬賀に場所を聞いてやってきた、と言っただけだ。  帰れない理由があるのかもと思った、とは言っていたが、つまりやましいことってことだろ?  それこそ浮気やらなんやらの不貞行為及び火遊び。その心配は理解している。  しかしナーコ目線の見解を聞くにつれ──俺の体はジワジワと体温が上がり、言葉を失う羽目になってしまった。 「それってつまり、シュウちゃんが誰かに手出しされてないか気が気じゃなかったってことでしょ?」 「…………」 「心配だったのは、シュウちゃんの浮気とか悪ノリじゃないのよ。シュウちゃんの身の安全と無事の帰宅。貞操もね。それだけシュウちゃんラブってこと」 「…………」 「カレシくんはバイだけど、元ノンケのシュウちゃんは男への警戒心が薄いもの。素人臭に集る悪い男にお持ち帰りされたり、無知に漬け込まれて騙されたり、相手のその気に気づかずちょっかいかけられたり……自分がそばにいればまだ牽制できるのに、ナイショで勝手に行かれたって知ってかなり焦ったんじゃない? しかも返信なし。そりゃあ相当急いで現場まで来るわよぉ〜」 「…………」 「で、まんまとキレイちゃんが手出ししてたからプッツンきちゃったのよね。なんせ彼、シュウちゃんラブだから」 「…………」 「怒ってたのは、シュウちゃんが勝手だからじゃないのよ〜。案の定騙されちゃっててショック受けちゃって、要は心配の裏返しじゃない? 無事の反動? 八つ当たり? なんにせよ愛ね。だから大好きなシュウちゃんに酷いことしたキレイちゃんは許せないし、シュウちゃんの無事を確認してなかったから体面気にする余裕もなくて、ブチギレちゃったんでしょ? 涼しさとは無縁な顔で」 「…………」 「必死になるってことはそれだけ大事ってことなの。彼が怒った理由は〝俺がこんなに必死に大事にしてるアンタを粗末に扱うな〟ってことよね〜」  ウキウキと全容を聞きかされた俺はその場にやおらしゃがみこみ、俯いたまま無言で頭を抱えた。  全ては三初のガチギレ現場にいた上で先入観のない第三者である、ナーコにしか出せないフラットな解釈だ。  だからこそ信憑性がある。あるから俺は物も言えず頭を抱えている。  曰く三初は、浮気の可能性や隠し事のツケではなく、俺が食い物にされていることだけを心配して、夜更けにわざわざここまでやってきたらしい。  そしてナーコや客の視線も気にせず間森マネージャーを潰した理由は、俺に手出しされて、平静を保てないほど怒り狂ってしまったかららしい。  そんなに心配だったらしい。  そんなに許せなかったらしい。  だがにわかには信じ難い。  ムカついた、嫌だった。そんなふうに言われたがそれもサラッと理屈で言われただけで、そう感じた理由や意味までは詳しく教えてくれなかったのだ。  俺には淡々とキレてたくせに。  朝だって、もうなんでもない顔してたくせに。 「う、嘘だろ……」 「ホントよぅ」 「じゃあアイツ、それを俺に言えよ……!」  照れ隠しに文句を言うが、体の熱はちっとも冷めなかった。  嬉しいのか、俺は。  悔しいけど、嬉しい。クソ、ムカつく、嬉しい。クソ……っ!  赤くなった顔を隠す腕までみるみるうちに真っ赤に染まり、全身隅々が悶え狂いたかなる稀有な感情に満ちていく。 「うふふ。シュウちゃんが眠ったあと改めて挨拶に来てくれた時は、初対面が嘘みたいに涼しい顔したスマートなイイ男だったけどねぇ〜」 「好きの一言も言いやがらねぇくせに……」 「それが崩れるんだから、愛よねぇ〜」 「俺に見せなきゃ意味ねぇんだよ……ッ」  熱くて熱くてたまらず、顔を隠したまま悪態を吐くことしかできない。  ナーコが茶化しても構わずだ。  素知らぬ顔をしていた三初の一面を人づてに聞かされるなんて、青天の霹靂すぎた。いかん。死ねる。  恥が限界を迎えた俺はついにカウンター席のテーブル下に潜ってしゃがみこみ、ナーコの目から隠れる。  ナーコは「シャイな子だワ〜」と笑って店の奥へと消えた。用があるのだろう。好都合である。  そうして一人になった店内にいると、不意にポケットに入れていたスマホが継続的に震え、着信を知らせた。  未だ熱の引かない顔のままモソモソと動き、スマホを取り出す。  画面の文字は〝三初 要〟。  タイミング良すぎかコノヤロウ。

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