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「それってつまり、この世界をよく知らない素人のシュウちゃんが油断して、悪い男にうっかり引っかかるのが心配だから、慌てて迎えにきたってことでしょ?」 「…………」 「キレイちゃんがシュウちゃんにちょっかい出して、ベッドルームに連れ込んだってわかったから、怒ったのよ。それは大好きなシュウちゃんに、キレイちゃんが酷いことをしたからでしょ?」 「…………」 「シュウちゃんが知らない間に傷つけられたら、彼もクールじゃいられなかったのよね?」 「…………」  全容を聞かされ、俺はその場にやおらしゃがみこみ、俯いたまま頭を抱えた。  全ては三初が怒っているその場にいた上で、第三者であるナーコにしか出せない見解だ。  曰く三初は、浮気するかもしれないとか、勝手なことをされたからとかの心配ではなく、俺が食い物にされることを心配して、ここまでやってきたらしい。  そしてナーコが見ているのも気にせず間森マネージャーに蹴りを入れて尋問したのは、俺に手出ししたマネージャーに、平静を保てないくらい怒っていたかららしい。  俺には淡々とキレてたくせに。  朝だって、なんでもない顔してたくせに。 「う、嘘だろ……」 「ホントよ〜」 「じゃああいつ、それを俺に言えよ……!」  照れ隠しに文句を言うが、体の熱はちっとも冷めなかった。  嬉しいのか、俺は。  悔しいけど、嬉しい。クソ、ムカつく、嬉しい。クソ……っ!  赤くなった顔を隠す腕まで真っ赤に染まり、全身が悶えそうな感情に満ちていく。 「うふふ。シュウちゃんが寝てから挨拶に来た時は、嘘みたいに涼しい顔したスマートないい男だったけどねぇ〜」 「好きの一言も言いやがらねぇくせに……」 「それが崩れるんだから、愛よねぇ〜」 「俺に見せなきゃ意味ねぇんだよ……ッ」  熱くて熱くてたまらず、顔を隠したまま悪態を吐くことしかできない。  ナーコが茶化すが、構わずだ。  素知らぬ顔をしていた三初の一面を人づてに聞かされるなんて、思いもよらない出来事すぎた。  恥がすぎた俺はついにカウンター席テーブル下に潜り、ナーコから隠れる。  ナーコは「シャイな子だワ〜」と笑い、店の奥へと消えた。用があるのだろう。  そうして一人になった店内にいると、不意にポケットに入れていたスマホが震え、着信を知らせた。  未だ熱の引かない顔のままモソモソと動き、スマホを取り出す。  画面には〝三初 要〟の文字が表示された。タイミング良すぎかコノヤロウ。 「……なんだよ」 『真のお母さんがタケノコくれたんですよ。今日しこたま春巻き揚げるんで、夜集合ね』 「おー……揚げ物だけだとそんな食えねぇぞ」 『おっさんだなぁ。バター醤油焼きとカラシ味噌炒めしますが』 「まだ二十代だぞコラ。……たけのこご飯は」 『うわ、先輩の口からたけのこご飯って出るとなんかウケる』 「うるせぇ、ほっとけ。もっと似合わねぇこと言ってやろうか? あ?」 『いいね、言ってみてくださいよ。例えば?』 「…………あったかごはん?」 『ウケるわ』 「いやさっきから一言も笑ってねぇだろテメェ」  テーブルの下の足を置く段差に座って、いつもと変わらない会話を繰り広げる。  三初は相変わらずのテンポだ。  俺が衝撃の事実にすこぶる照れていることなんて、知らないだろう。

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