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「……なんだよ」 『真のお母さんがタケノコくれたんですよ。今日しこたま天ぷら揚げるんで、夜集合ね』 「おー……いいけど、揚げ物だけじゃあんま量食えねぇぞ」 『オッサンだなぁ』 「まだ二十代だわコラ」 『じゃあ七味醤油で焼いて大根おろしでサッパリ。あと春系の野菜と豚肉炒めて甘めの味付けにしますか。残りは下処理して適宜常備菜にしよ』 「……たけのこごはんは」 『うわ、先輩の口からたけのこごはんって出るとなんかウケる』 「うるせぇ、ほっとけ。もっと似合わねぇこと言ってやろうか? あ?」 『いいね、言ってみてくださいよ。例えば?』 「…………あったかごはん?」 『ウケるわ』 「いやさっきから一言も笑ってねぇだろテメェ」  テーブルの下の足置きっぽい段差に座って、いつもと変わらない会話をダラダラと繰り広げる。  三初は相変わらずマイペースだ。  俺が衝撃の事実に照れて頬を赤くしていることなんて、知らないだろう。 『若竹煮ね。来しなにわかめと菜の花買ってきてください。あ、ついでにミックスナッツとクリームチーズ。固め薄めのクラッカー。ダッシュ』 「パシリか俺は」  ここぞとばかりに雑用を頼まれるが、俺はいつも結局買って帰る。  気が向けば一緒に晩飯を食い、週末は気まぐれに泊まったり帰ったり、暇が合えば出かける普通の付き合いだが、それが落ち着くようになった。  そりゃあまあ、俺たちはよく喧嘩もするし、言い合いはしょっちゅうだ。  ドラマチックなことなんてなにもない。おかげでふとした時、いつか飽きるんじゃないかと心配になる。  俺の日常に三初との付き合いがノーマルとして組み込まれて、俺は結構、満足。相手がどうかはわからない。  でも三初は涼しい顔で俺と一緒にいて、ああして俺が面倒を起こしても、他人の横槍が入っても、付き合いを続行することは前提で迷わず努力する。  居場所を聞いて迎えに来て、ぶつけて、受け止めて、間森マネージャーがもう手出しできないようにもした。 (……うん)  なんだ、その、な。  思うとやっぱ、だらしのねぇ顔になっちまう。春って結構、暑い。……クソ。  だからたまには、俺もデレるという努力が必要なのかもしれないと、魔が差した。 「なぁ」 『なんですか』  しばらく会話を続けて、頃合いを見て声をかけた。  落ち着かなくて意味なく耳の後ろを触り、気を紛らわす。 「お前、俺んとこ来る前、間森マネージャーにキレて殴りかかったんだろ。凄い剣幕だったって聞いたぜ」 『……まぁ、んー……あー……や、そんなに? 気がついたら仕留めてただけで』 「社会的にもか。……じゃなくて、俺、今から全然似合わねぇこと、言ってやっから、ちょっと聞け」 『どーぞ?』  掘り下げるでもなく楽しげに肯定されて羞恥が込み上げ、今すぐなかったことにしたくなったが、それじゃあダメだと思い直す。  うし、俺だってたまには素面でそれらしく、言ってやる。  男が本気でやりゃあなんでもできる、はず。スーハースーハー。深呼吸だ。 「まぁ、俺はこんな空回りばっかのダメな先輩で、彼氏だけどよ」 『お?』 「これからも、付き合ってくれよ。……(かなめ)」 『…………』  擽っていたスマホを押し当てていないほうの耳を、ついに塞いで、照れという名の瘙痒感にモゾリと身悶える。  今度の三初の尽力に報いるため、俺は素直な気持ちを、ベッドでもなく酒の力も借りずに言い切ったのだ。  名前呼びは誠意の表れ。  ずっと気になってたしな。こだわりはないけどいい機会だと思う。  しかし通話の向こうからは、どうしたことか沈黙しか返ってこない。 「? おい……要?」 『…………はい。要です』 「そりゃわかってんだわ。そうじゃなくて、もっとこう、俺の決意表明についてなんかねぇのか。なんか」 『なんか、……あぁ、……はい。承知しました。今後とも末永くよろしくお願い申し上げます』 「いや業務連絡かよ」 『うん。名前呼びに関しましては本日個人的に判断できかねますので、一度持ち帰り、後ほど改めてご連絡いたしますね。本日はお時間をいただき誠にありがとうございました』 「取引先かよッ。しかもそれ否決する時の断り方だろうがッ」  やっと返ってきたと思えば突然のビジネス対応に、俺はパシンッ! と膝を叩いて訴えた。

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