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「ほら見ろ、どうせ気ぃついた時にゃあ限界で立てもしねぇし叫びも動けもしてぇもんであぁなってたんだろッ? じっとしたところで回復するわけでもねぇのに小賢しいこと考えやがって……サイボーグだって故障するぜッ」
「あーもーわかったんで、先輩あっちいってくださいよ……バカフィルター通って感染したら余計めんどくさいでしょ。あとガオガオうるさい」
「一緒に住んでンだから俺ァここにいるしかねぇンだよ! 黙って寝てろボケ」
恋人の心配をすげなくあしらうドライな反応も、目元を腕で覆いながら覇気のない声じゃどうってことはない。
年上長男を舐めんなよ。
親が留守の時に美環が風邪をひいたら、俺が面倒見てたんだ。
ブスくれた表情のままとっととキッチンへ向かい、給湯器から熱めの湯を出して風呂桶に溜める。
それから不機嫌丸出しでハンドタオルと桶を持って寝室へ戻り、変わりなく転がっている三初の服を脱がした。
プチプチと濡れたままのシャツのボタンを外し、インナーを脱がせて上半身を裸にする。
続いてジーンズも脱がせて下着姿にしてやると三初は「自分でやるんで」と呻いたが、起き上がれはしないらしい。
中身は熱くとも表面がヒヤリとした素肌は、風邪菌を貰った上で濡れ鼠のままでいた迂闊のツケだ。
「チッ……三時間もなにやってンだ、バカ。体調崩したら隠れて気配殺すとか猫かよ。わざと悪化させてンじゃねぇ」
「…………にゃーお」
ぎゅっと固く搾った温かいタオルで丁寧に汗を拭ってやりながら叱ると、三初はようやく諦めたのか、ゆっくりと息を吐いて降参の鳴き声をあげた。
「お前、なんで俺に連絡しなかったんだよ。スマホ机の上に置いてただろ」
「や、まぁ……何年ぶりってくらいの風邪ですし……感覚的にインフルとかじゃないんで、動ける程度になったら、自分で横になれたから。いて」
パシッと頭を叩く。
されるがままの三初はそっぽを向くが、今回ばかりは自分にもこいつにも腹が立って、手を出さずにはいられない。
「もっとわかりやすく弱れ、タコ」
「いて」
もう一度パシッ、と頭を叩いて熱い体を転がし、背中側も拭いてやる。
居心地悪そうに黙る三初には見えない背後へ回り、苦虫を噛み潰して湧き上がる苛立ちを抑えた。
俺が不満を感じるわけは、三初がすぐ近くにいた俺に、頼らなかったからだ。
高熱を出した体は気だるく重く、当たり前に扱いに苦労する。
メシも食ってないんだ。血圧の低いこいつが無理に立ったところで、どの道立ちくらんで倒れる。俺にバレずに這いつくばって寝室に辿り着けるわけもなく。だからあぁしていた。
「……普通に、ちょっと来てくれって、呼べばよかったじゃねぇか」
力を入れすぎないように背中を拭いてやりながら、肩を押さえる手のザワつきから視線を逸らす。
「憎まれ口しか叩かねぇ口なら捨てちまえ。俺には、ベッドよりデスクの寝心地がいいとは思えねぇな」
「そう拗ねないでくださいよ」
腕で目元を隠したまま返される三初のぼやきに、なにも言えず、ぬるくなったタオルをお湯で洗って絞った。
拗ねてるってのは当たってる。
恋人で、年上で、先輩な俺に頼りがいがないのかって、そういう気分だ。
けれど不満の矛先に自分が含まれるわけは、俺は三初が風邪をひいているのを気がつかなかった、という事実。
もちろん普通に考えて気づけない状況だったということもわかっているが、そう現実的な理屈じゃない。
(……三初は俺が風邪を引いた時、言ってなくても気づいてくれたのによ……)
勝負事ではないけれど、俺も、三初に気がついてやりたかった。
ちょっとだけ、罪悪感がある。
こいつは付き合う前のただの先輩に過ぎなかった俺が看病を突っぱねても、自ら戻ってくるような男だから、だ。
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