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寝ても醒めてもいるのが同居生活だから、嫌でも感情が掻き立てられるのだ。
報連相を怠られる蚊帳の外を寂しがることやほんの小さなことへの不満も、なにかしてやりたいとか、頼られたいっていう気持ちも、忘れられない。
言われないと手を伸ばしたくなる。
話してくれないと、機嫌が悪いのかとか、拗ねているのかとか、俺はお前のほんの少しの変化を追いかけてその理由をひとり虚しく想像するだけ。
そういう時、俺は惨めだ。
三初はなんでもすげぇ感じるんだよ。
こいつはなんでもよく見てる。
俺がなにも言わなくても小さな変化にすら気づいてくれるし、小さな呟き方でも名前を呼べばほぼ聞き逃さない。
それぐらい俺といる時は、俺に全神経を向けている。俺を感じてる。
だから三初は俺が自分の目の前でよそ見をすると、猛烈に腹が立つ。
ちゃんとわかってる。つもりだ。
自分はそんだけ関心寄せて全部気づくのに、相手がよそ見じゃムカつくって不満に思う。ん、だと思う。
それでも一応。俺が本気で三初を好きだということを、こいつはなんとなくわかってくれていた。
気づかない俺でもよそ見をする俺でもデリカシーのない俺でも不器用な俺でも三初は俺の恋心が冷めたと勘違いはしないし、意地を張ったつれない暴言や態度にも傷つかない。責めもしない。
照れ隠しだとわかっているのだ。
わかられていることも、なんとなくわかる時がある。
好きという言葉を貰えなくとも、三初は俺がちゃんと三初を好きだとわかっていて、俺は三初がちゃんと俺を好きなのだと、よくわかる。
いや、わかるようになった。
三初は俺をだいぶ好きだ。俺もだいぶ三初が好きだ。でも同じように気づいてやれない。惨めだ。俺は足りてない。けど好きだ。なので気づかせてほしい。
気づいてやれなくても、お前が弱ってるならなんだってしてやりてぇんだ。
そう思っているから……弱ってるくせに、自分がちゃんと好いてる恋人すら拒絶するこいつが、すげぇムカつく。
三初は俺が愛想笑いやらよそ行き対応やら気を使って接するとイラつくが、俺は三初が自分は一人で問題ないという態度をとると、腸が煮えくり返ってイラつくのだ。
他人の頼りなんていらない。
別の見方をすると、それは〝他人の荷物にはならない〟ということである。
人の世話は焼いたくせに恋人だろうが弱った姿を見せないドライな傲慢さは、俺が頼りないから頼れないという意味ではなく、一人で解決したいから頼らないという意味。背負われたくない。理由は不明。
だから、俺はそんなに頼りないかって腹立つんだよ。
どんな理由であれその程度の度量しかねぇと思っているなら、舐めるなとキレたいしやっぱフルスイングで殴りてぇ。
まず好きな男を荷物うんぬん思うわけねぇだろボケってのは前提として、それを肯定したとしても殴りてぇ。
バカ。
背負いたい荷物もあるだろ。
俺はな、お前のこと、好きなところも嫌いなところもめんどくさいところも心地いいところも強いところも弱いところも全部ひっくるめて〝ただの三初要〟だと思ってんだぜ。
初めから終わりまで、ずっと。
「俺が好きでこうしてんだって、いいかげんわかれよ。なんでそんな強がるんだ? マヌケ。ぶっ倒れてた時点でグズグズだろうが」
熱い頬をなでて、顎を取り、唇を親指でなぞって、じっと見つめる。
かけた言葉は乱暴でも、声はとびきり優しくしたつもりだ。
ギシ、とベッドを軋ませて顔を覗き込みがてら身を寄せ、可愛がるように視線を絡めて勝気に笑ってみせる。
やい、病人。
てんで迫力ねぇ顔しやがって。
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