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 無理強いは良くないか、と思って仕方なく離れてやり、軽く布団の塊を叩く。  すると熱い手が再度伸び、俺の手を緩く握った。 「ま……嫌なわけじゃ、ないからね……ゴホッ……」 「でもよ、手ぇ叩いただろ?」 「……普通に、俺はこういうの、慣れてないんで……わかんないですよ。ゲホッ……困るなぁ。どうしていいのやら」  ボソボソと呟きながら、三初は握った手に指を絡める。  そんなことを言われながらそんなことをされると、当然、反射的にギュッと強く握り返してしまった。  いや、だって、なぁ? 「テメェ、マジでデレ期かわいい系かよ」 「は……? イカれてますね……クソ老眼耄碌アホかわ系には、負けますよ」 「今のはわかったからな、毒舌クソ野郎。テメェ、それ照れ隠しだろ」  つい思ったことを口に出してしまい、三初が反射の勢いで俺を罵った。  しかしへろへろの三初の攻撃力では、ちっとも俺にダメージがない。 (こいつ……クソ、老眼、耄碌、アホ、の四段階の煙を巻いて、理解不能だが俺もかわいい系だって伝えてきやがった。筋金入りだな、チクショウめ)  もちろん流石に経験上と今の流れで、本心がわかっているからである。  だから俺の口角は上がったままだし、目つきは極悪人のそれだ。  付き合って約半年。  システムがわかれば、三初はかわいいやつだ。 「ってことは今までの暴言にも、照れ隠しのやつとかあったのか? うわぁ、お前ひねくれ過ぎなんだよ……友達いねぇだろ……」 「……お黙りやがれくれませんかねぇ……」  くぐもった冷淡な声と咳き込む音が聞こえるが、俺はちょっと同情してしまった。  そうか、持病だもんな。  鬼畜暴君で天邪鬼のひねくれクソ野郎なのは、中学時代にはだいぶ完成されてたらしいしな。  付き合ってなかった頃は、マメに行動する固定の友人が出山車しかいないことを訝しんだ。  しかしなかなかわかってきた三初 要という人間を分析すると、今は納得だ。  こいつは人と腹割って仲良くなることが、本気で不向きなんだろう。  弱みも見せねぇし腹も割らねぇ鉄壁のサイ暴君とか、どうしようもねぇやつだな。 「でも俺はお前のそういうところも、イラつくけど別に構わねぇって思ってるぜ。不定期に苦しまない程度の風邪を引かせたい気分ではあるけどよ」 「や、風邪を引かないとかわいげねぇとか言われても。デリカシーないですよね、修介は」 「あぁ? ホントのことだろうが」  ペイッと投げやりに手を離され、俺は唇を尖らせて不貞腐れた。  なんでだよ。褒めたんだぜ。  三初のやなとこを全部許せるくらいには、三初のいいとこが俺は好、……きなんだってこった。 (ふん、まぁいいか。とりあえず、薬飲ませるために飯を用意してやんねぇと)  ちょっと待ってろと声をかけて立ち上がり、部屋の外へ歩いていく。  三初が倒れて、その反応で初めは怒ったが、その理由がわかって歩み寄れた。  毎日一緒の家にいるってことに慣れてなかったから、理想と現実で違和感があったんだな。  俺はココ最近よりいっそうの親密さを求めてしまったり、三初は一人の時と同じように生活してしまったり、だ。  風邪で苦しんでいる三初には悪いが、俺はやっぱり、今凄く嬉しくて、弱みを見せてもらえて空も飛べそうってやつだった。  バタン、と部屋を出て、ドアを閉める。 「…………ん? ……修介?」  ──はて。  弱りきった果てのデレ期の更に果ての攻撃力とは、いかに。  俺はその場にヤンキー座りでしゃがみこんで、しばらく真っ赤になって俯いた。

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