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 ◇ 〝料理は三初の担当だから俺にはできない〟  そう言っていた過去の俺よ。  食費を出しているからと言って当たり前に三食手料理を食わされていたありがたみを、今すぐ骨身に刻み込んでごちそうさまを忘れんな。 「この鳥がゆ、クソまずい……ッ!」  ゴンッ、とシンクに頭をぶつけて、自分の不器用さを呪う。  中都の監修を受けながらマフィンを焼いたことでやればできると思い込んだが、自意識過剰すぎた。  きちんとレシピを調べて、シェフが教えるかんたんレシピ的なものを発見したのだ。  なのに俺が初めて作った鳥がゆは、残念ポイントが目白押しである。  まず、米が汁を吸いすぎてべっちょりとしているのはなぜだ。  おかしい。  そうならないよう、米から炊くレシピを選んだのに。  次に裂いた鶏ささみがなんだかパッサパサしている。  全然わからない。  汁に浸かっているのになぜパッサパサになるのか。  どこからか「出汁を汁と呼んでいる時点で既に不安要素」という声が聞こえるが、俺の耳には届かない。液体は汁だ。  その次に味だが、のどにいいということでたっぷり入れたショウガの味が、残りすぎている。  一口食べただけでジンジャー臭が鼻から抜け、今めっちゃショウガ食ってる感が強い。  隠しすぎた隠し味であるごま油と鳥の風味がする、ショウガ味のかゆだ。 「……むしろ俺が作ってたのって、ショウガがゆだったのか?」  書かれたレシピのとおりにやったはずがうまくいかない理由がわからなさ過ぎて、小首を傾げて呟く。  現実逃避とも言う。  三初のエプロンを着けたまま腕を組み、悩ましい気持ちで一人用鍋を見つめた。  これは、まずい。  だが大雨の中外へ出てかゆを購入すると、いよいよもって俺も風邪菌を貰うかもしれない。危険すぎる。  それにかゆを炊くために調理ニ十分、炊飯四十分で、一時間も使っていた。  おかげで時刻はおやつ時である。  俺の腹の虫も鳴くが、三初が薬を飲めず、いつまでたっても解熱できない。  頭も痛いままだ。かわいそうだ。  考え込んだ俺はややあって、冷蔵庫から三初がトッピング用に刻んでおいているねぎを取り出し、鍋に散らした。  せめて彩をよくしようという悪あがきである。そんなことをしても味はよくならない。  妹のめんどうを見ながらも家事はしていたので、料理以外は苦もなくできる。  なのに料理だけは、授業で失敗してばかりだったため苦手意識がつき、避け続けてきた。  おかげでこういう時にも失敗する。  俺は肝心な時でもかっこ悪いぜ。  三初に作ってもらうことが当たり前になっていた自分を恥じて、鍋と器、それから薬と飲み物を盆に乗せ、歩き出す。  寝室に入ると、三初はまだ眠れていなかったのか、起きていた。  薬を飲んでいないので辛いのだろう。  俺が丸椅子を引っ張ってきて座ると、もそもそと起き上がり、ぼんやりと鍋を見ている。 「その、なんだ。あんまうまくできなかったけど……飯だぞ。残していいから、食え。ちびっとでも食わねぇと、薬飲んだら胃が荒れちまうしよ」  そう言うとぼんやりとしていた三初の視線が俺に合わさり、着けっぱなしのエプロンを見た。  お前のを借りたんだと言うと、へぇ、とだけ言われる。  なんだよ。  似合わねぇのか? 知ってるわ。 「んー……これ……ゲホッ……手作り、ですか」 「言っとくけど、危険物発言は全部却下な」  カポ、と蓋を開けて器に軽くよそい、スプーンを添えて差し出してやる。  器を受け取った三初は珍しくなにも言わずに、一口食べた。  二口目も食べる。  静かに咀嚼もしている。  三口目も食べる。まだ無言だ。  あの三初がこの味に突っ込まないなんて、嘘みたいである。

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