346 / 415

04

 トポスの夏味とは──弾けるレモンスカッシュ味と弾けるメロンソーダ味のこと。  竹本の企画はそれをクラッシュしてアイスクリームに混ぜて食べる、という食べ方を、一週間ショッピングモールでアピールしていくものだ。  売り方がそれってだけで、もちろん他にも紹介する食べ方はある。  ドリンクに混ぜるのも、パンに挟むのも、帰ってやってもらうために実演するわけだ。  そしてその一週間、モールでの売り上げがよければ、夏休みのサマーフェスで露店を出すことになっていたりした。  だからこそ、企画の担当者自らスタッフになり、顧客の反応をリサーチしなければならない。  当然客商売なのだから、にこやかな営業スマイルと愛想が必要不可欠。  それはどちらも、俺が生まれた時から持ち合わせていないスキルであった。  竹本の企画に俺が混ざったところで、大苦戦を強いられること請け合いだろう。 「まータイミング最悪ですが、来週はどうにかこうにかこなしてもらわないと、俺が困るんでね」 「ふん、どうにでもしてやるってんだ」  スープを飲んでそう言う三初に、俺は投げやりな意気込みで返した。  確かに企画が滞れば、ワークキーパー的な役割を担うことになった三初の仕事が増えてしまう。  おそらくこのチーム替えで全チームがなにかと問題を抱えると予想すると、三初と山本はその粗を埋めるために奔走するはずだ。  仕方ねぇな。  せめて恋人の俺は、なるべくキチンと滞りなく順応してやるべきってもんか。  寂しがる、じゃないモヤるのはその後だ。  まずは仕事を上手くこなせるようになり、余裕ができてから二人の時間が減ることを考えよう。  ケッ、社畜は辛いぜ。  勝手に俺を教育係に任命したくせに、三初が丸くなってきたら解任しやがった。  不貞腐れつつも今後の方向性を自分の中に落とし込み、食事をかき込んで咀嚼する。  こうなったら同棲期間の七月中に意地でも順応して余裕を作り、週末だけでも二人の時間を作れるように、働くしかねぇ。  そうして口の中いっぱいに最後のパスタを詰め込んだ俺を、三初はじっと見つめた。 「……先輩、なんか……あー……」 「むうぅ?」  煮え切らない言葉をかけられ、きょとんと首を傾げる。  なんだよ。  こっちの話は終わったぜ。 「や、みっともねぇの。ソースついてますよ」 「んゔッ!」  だがしかし。  純粋に聞くつもりで待ったのに、なにを思ったかティッシュで唇にダイレクトアタックをキメられた。 (クソサド野郎! 痛てぇんだよこのスットコドッコイッ)  フェラやらなんやらで散々世話になってるくせに、俺の唇をもぐんじゃねぇッ!  という叫び声は言葉にならず、奇しくもティッシュの中に吸い込まれていくのだ。  無念すぎる。祟りたい。 「取り敢えず、仕事はガチで片しましょ。来週いっぱいでね」 「過労死するわッ(ふぁうぉふぃふうむぁ)!」  グリグリと乱暴に口元のソースを拭き取られながらふざけたノルマを課され、当然俺は唸り声をあげた。  こんな俺たちの不本意なコンビ結成から、初めて迎える解散。  三初の気がかりなことも俺の気がかりなことも未解消だが、迎える来週はどうなることやら、である。

ともだちにシェアしよう!