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「今そういうこと言うなッ。テメェ普段食いもんに明確な好き嫌い言わねぇだろッ」 『ん? なんでですか? 別にいいでしょ。俺にだってこだわるほどじゃなくても、多少の食の好みがありますよ』 「じゃあ俺のって付けねぇで普通におにぎりが好きって言えッ」 『ワガママだなぁ』  喉を鳴らしてのんびりと答える三初に、声をひそめつつも俺は噛みつかん勢いで食って掛かる。  含み笑いの後、ふう、と気だるそうな息を吐かれて、耳孔がゾク……、と粟立った気がした。どうせ、気のせいだ。 『めちゃくちゃ、好きですね』 「っ……」 『おにぎりが』 (今、俺はテメェがこの世で一番憎い……ファッキン倒置法ォォ……ッ!)  一瞬でも自分に言われているような気になった俺は、ベッドの上で目元を覆い、ブシュウと湯気が出そうなくらい羞恥に焼かれてしまった。  倒置法。それはノーマルな文法表現の順序を逆にする表現方法。  少し補足を加えるならば、俺が今すぐ助走をつけて殴りたいのは、これを開発したであろうどっかの誰かである。  そして、遅ればせながら……一つ気が付いたことがあった。  未だ紅潮したままの目元を擦り、通話が繋がっているスマホを握り潰しそうなほど強く握る。 「三初ェ……! テメェ、わざとンな言い方してんだろッ!」 『あら、バレましたか』  この極悪サディストめッ! やっぱりか──ッ!  殺意を込めた言及だったのに、ちっとも反省していない三初がしれっと肯定するのを、俺は顔を真っ赤にして呪いをテレパスした。  ムラムラもドキドキも、全てイライラが塗り替えた瞬間だ。  怒りは全てを凌駕する。 『でも思ったより早かったな。激ニブ先輩もほんのちょこっとは察しがよくなるもんですね。くくく、褒めて遣わす?』 「うっせぇわ性悪暴君ッ! こちとら会えもしねぇのにヤリてぇスイッチ入ってモヤってんのに、わざと煽ってたのかよッ! 股間爆発しろ。速やかに爆ぜろッ」 『や。甘えたいのかなとは思ってましたが、そこまでは察してなかったですけど』 「は?」  ひそめた声を荒れさせてからかわれたことに抗議した──のだが、予想外の返答が返ってきて、俺はピタリと静止した。 (ええと、どういうことだって?)  高速で回転する思考回路で分析すると、三初は俺が寂しさにかまけて甘さを求めていることは気づいていたらしい。  だけど俺が煽られて困る理由は知らなかった、が。  それを今、知ったと。 「…………」 『まさか先輩が、ヤりたくなっちゃってたとはなぁ。声だけで興奮するとか、御割犬の発情期かねぇ……』  やめろ。改めて言うな。  わかりきってる失態を改めて暴くんじゃねぇ。  しみじみと納得する声が機械を挟んで耳孔をくすぐるのが、死にたくなるほど羞恥をもたらす。  返す言葉も、すぐには出ない。 「ぃ、今すぐさっきの言葉は忘れろテメェッ! 俺は別に、その、い、言い間違いで、お前の聞き間違いっつー……ッ」 『あらら。じゃあなんて言おうとしてたんですか?』 「なんっ」  ビクッ、と体が跳ねた。

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