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  ◇ ◇ ◇  今日も今日とて、現場は戦場だ。  備品や在庫ストックを調達して受け取りに走る竹本がいない露店内で、俺と接客メンバーの三人はせっせと働く。 「担当さん、レジおねしゃーす」 「はいッ」  いつの間にやらレジ担当になっていた俺は、ゴミ回収の時間になりゴミ箱を片付けていた手を止めてレジに向かう。ちゃんと手袋履いてるぜ。  ゴミ回収の時間は母体側に細かく決められているため逃すと後出しできないのだが、こう忙しいと毎度ギリギリだ。  それに、毎日俺が朝礼で細かいことを言うからか……接客メンバーは竹本がいない時は動きが遅くなる。気がする。  竹本は気づいていない。  というか、想定外のムーブと集客が現れ始めた頃からアイツはあまりここにいない。店舗に顔を出す時は状況確認や細かい指示出し、売り上げや時間帯客数等をデータチェックする時くらいで、現場は任せたということだろう。  となると現場の問題は基本全て俺が一人でどうにかしなければならないわけなのだが、苦手意識もあり、俺は過剰に気張ってしまっていた。  有り体に言えば、空回り気味。  はぁ……怖がらせねぇようになるべく優しさ意識してゆっくり言ってるつもりなのに、上手くいかねぇ。  自分の部下ならじっくり育てられる。  自分の企画なら熟知して引っ張れる。  自分の接客スキルが高ければ自信を持ってもっとハッキリ指導ができる。  けれど相手は行きずりの短期バイトで、学生で、俺たちは雇った側。  竹本と元相方が考えて準備していた企画に途中から合流した俺も半分はアイツら同然なのだから、現場スタッフ経験も浅い身でリーダーシップの足りない俺が、上から物を言えるわけないのだ。  あぁ、クソ。竹本がいねぇ時だけやたら仕事回らねぇのも、結局は俺の能力が追いついてねぇってことなんだろ?  ぐるぐるとドツボな思考を回す。  行列のレジを処理しきったあと、客が引いた僅かな隙にゴミを集めてからバックヤードへ袋を担ぎ早歩く。  客が引いて時間が空いても、やることなんて無限にある。  下準備あれこれ、補充あれこれ、入れ替えあれこれ、各メンバーの休憩など。  できれば客引きをしたり試食を出したりより周知を獲得する工夫をしたいが、今のところそんな暇はない。夏休みプラス更に賑わう土日のラストスパート狙って集客してぇんだけどよ。  あれもこれも、たくさんあんのに、客前のフロアじゃ走れねンだ。  目の前に現れるタスクをこなすだけで精一杯の俺は、自分がしている仕事が自分の仕事だったか、考える余裕はないのだ。  俺がゴミ回収をして捨てに行く間に二人のどちらかが補充か準備、せめて後片付けだけでも終わらせてくれていれば御の字なのだが、一通り教えたものの、やってくれたことはなかった。  客が来ない時はつっ立ってんだよな。  アイツらを一人ずつ休憩に出す二時間は俺が雑務終わらせるほど暇ねぇし、マジでままならねぇ。自転車操業だぜ。  やり方を教えて理解度も確認したはずなのに必要な時に動かねぇで置物化するやつは、直の後輩なら叱り飛ばしてる。  けど、今は現場が職場だろ?  客に見えるところで注意はできない。隙を見て短く的確に指摘できるほど俺は器用じゃない。始業と終業の前後はギリギリに来てすぐ帰ってしまう。  昨日はついに接客態度に対してクレームがきた。  バイトの一人が、客を怒らせてしまったのだ。  もちろん俺が現場責任者として頭を下げたが、対応している間もそのスタッフはずっと俺の隣で立っていたから他の客を長く待たせてしまって、そっちからもちらほら不満の声が出た。  終業後、引き止めて指導したけどよ。  っても指摘する俺だって接客が上手いとは言えず、説得力皆無で効き目薄。  愛想笑いが固くて怖いってよ。  あと声が低くてたまにデカくなる(返事とか質問に答える時とか)のもビビるし、無理矢理笑顔作られても目が笑ってねぇから新手のパワハラ感じるって。  ぐうの音も出ねぇ。  ホテルでクレーム報告書を作成しながら唸った苦い記憶である。

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