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 黙って聞いていた三初に向き直る。  ノーコメントかよ。  動きもせず無言の三初に声をかけようとした瞬間、ふと肘を着いて顎を乗せていた手をするりと滑らせて、口元に当てた。 「全然、関係ない話なんですけど」 「っ……」  上目遣いに俺を伺うはちみつ色の瞳が最中の熱を持っている気がして、一瞬ドキ、とたじろぐ。  口元が隠れているので笑っているのかいないのかわからないが、声はいつも通りなのに目が離せなくて、少し上擦った声で「いきなりなんだよ」と尋ね返した。 「食卓の近くをハエが飛んでたら、食事に集中できないと思いません?」 「あっ? そりゃまぁ、そうだけど……」 「ですよね。ハエなんか別に噛みつきやしないし放っておいても無害なんですけど、〝もし俺の食事に止まりでもしたら〟って考えたら、ハエにその気がなくても叩き潰しておこうと思うもんでしょ? 俺ハエ語履修してませんし」 「あぁ、まぁ、確かに……?」 「ね。ハエは潰すし、食事はさっさと平らげておく。虫除けもしっかり。これでやっと、落ち着いて味わえるってもんなんですよ。……ねぇ?」 「お、おう」  ねぇ、と同意を求められて、コクコクと頷く。  俺が頷くと、三初は何事もなかったかのようにニンマリ笑って身を引き、パソコンをカタカタやり始めた。  ンだよ、変に身構えちまった。  マジで関係ない話しやがって、いつもの嫌がらせの一環かよちくしょう。  結局なんだかわからないまま終わったので、自分もパソコンに向き直って途中だった仕事を片付けていく。  ま、一応今度コバエホイホイとハエ取り紙買ってってやるぜ。 「竹本……俺は知っているぞ……パチンコの景品でバラエティパックをゲットした竹本が、モテなさそうな男性社員のデスクにチョロルを撒いたことを……」 「山本……更に知ってくれ……なんでか気に食ってないらしい三初に『それ俺がモテない男の慰めに置いたチョロルだぜ!』とか説明すると、三初とセットの御割に非モテ扱いがバレるからできないことを……」 「哀れな……おっ、そいや昼休みなら三初は出山車と食ってるからさりげ言えるんじゃないか? 今から食堂行く?」 「山本ッティ。三初は昼休み入った瞬間御割拉致って会議室に消えたぜ」 「竹本……!」 「なぜ知ってるかって? 三初追いかけたら現場目撃しましてね。なかなか出てこねぇから近づいたらなんか言い合う声とガタガタ物音が聞こえたので、バチバチの殴り合いと察しトンボ帰りして今です」 「ハエ本ぉ……!」 「嫌だーっ! 理由もわからず駆除されたくないーっ!」  了  フッ、ホワイトデーにバレンタインをすれば実質大正解だぜ。  読者さんへ日頃の感謝。  ちょいとでも笑っていただけますと嬉しゅうございまする!

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