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【先輩は綺麗でいながら 1】
◆fujossy様ユーザー企画投稿作品
★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★
【キーワード】
①プール
②読書
③先輩後輩
プールで泳ぐ、先輩の姿は。
どんな物語の主人公よりも、綺麗だと、思う。
……ピィィイイッ、と。真夏の空をつんざくような、笛の音。
その音に合わせ、プールに向かって飛び込む水泳部の生徒たち。
勢いよく泳いでいるから、腕や足の動きによって、大きな水の音が聞こえる。
この高校のプール場は高いフェンスで囲まれていて、生徒が見学をしようと思えば、誰でも見ることができる状態だ。
女子水泳部が練習をしているときは、プール場付近を横切る男子生徒が不自然なほどに多い。……逆に、男子水泳部が練習をしているときは立ち止まっている女子生徒が多くいる。
大人数のギャラリーにつられて、俺も立ち止まってしまった。そしてフェンス越しに、プール場を眺めるのだ。
笛の音と同時にプールへ飛び込んだ水泳部のうち、一人がゴールをする。その男子生徒は、同じタイミングで飛び込んだ部員に圧倒的な差をつけてゴールをしたらしい。他の部員はまだ泳いでいるのに、一人だけ悠々とした態度で、プールサイドへと立った。
それを見て、女子生徒が騒ぎ出す。
「「「キャ~ッ!」」」
女子生徒の声は先ほどの笛よりもけたたましく、プール場へと響く。
プール場には、タイムを競って泳いでいたり、飛び込みの順番を待ちながらストレッチをしていたりする男子水泳部員がいる。
炎天下の中、無防備に素肌を晒している生徒たちの肌は……小麦色に、焼けていた。それは、黄色い歓声を一身に浴びている男子生徒も、例外ではない。
息を乱した様子もなくプールサイドを歩いている男子生徒が、ふと、顔を上げる。
──パチッ、と。顔を上げた男子生徒と、目が合ってしまう。
男子生徒は俺と目が合ったことに気付くと、口角を少しだけ上げた。それを見て、女子生徒が黙っているはずがない。
「「「キャーッ! 浅水 先輩ーッ!」」」
鼓膜が破けてしまいそうなほど大きな歓声から、俺は逃げるように歩き出す。
……バレて、ない。……よ、な?
女子生徒は、彼の笑顔をファンサービスかなにかだと受け取っただろう。俺が抱く焦燥感がバレてしまうくらいなら、そうして楽しくハッピーな勘違いをしてくれている方がまだいい。
炎天下の中、俺は図書室を目指して歩く。脳裏には、先ほどの笑顔がこびりついていた。
あの男子生徒の名前は浅水月泳 と言って、この高校の三年生だ。
水泳部の、部長。それでいて、女子生徒の憧れの的。
そして……。
俺、岡本 洋図 の。……彼氏、だ。
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