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【先輩は綺麗でいながら 7】

◆fujossy様ユーザー企画投稿作品 ★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★ 【キーワード】 ①プール ②読書 ③先輩後輩  風呂場で悩みに悩んでいた俺は、今現在。……制服に着替えて、高校までの道のりを全速力で走り抜けている。  ──あぁっ、クソ! 俺って、本当に馬鹿じゃんっ!  真夏の太陽が、容赦なく熱い日差しを浴びせてきた。……が、そんなことを気にしている場合ではない。  風呂場で悶々と悩んでいた時間が、思っていたよりも長かったらしく。  ──気付けば、練習が終わりそうな時間になっていたのだ。  アスファルトの上を、必死に駆け抜ける。中学時代に運動部だったおかげか、体力と脚力には自信があった。  とは言っても、高校に入ってからは帰宅部で、中学三年生の後半時点で引退していたから、多少のブランクはあるが。……それでも、俺はなりふり構わず走り続けた。  高校に近付くと、見覚えのある制服を着た人たちとすれ違う。 「浅水先輩、メチャクチャカッコ良かった~」 「暑い中見に行く価値あり、だよね!」  見覚えのある制服は、俺が通っている高校の制服だ。会話から察するに、水泳部の練習を見に行っていた学生たちだろう。 「相変わらず、綺麗なフォームだったよね!」 「フォームとか、ちゃんと分かってないくせに、なに言っちゃってんの?」 「こういうのって雰囲気が大事じゃん!」 「なにそれ、ウケる~っ!」  これだけ、浅水先輩が中心の話題をしている女子生徒が歩いている。……と、いうことは……っ?  ──まさか、もう……っ?  高校の校門を通り、水泳部が練習に浸かっているプール場へ向かう。  こんなに暑い日だっていうのに、浅水先輩を見るためだけにプール場へ向かった女子生徒。それが、練習の最中に帰るだろうか?  女子生徒は、高校に背を向けて歩いていた。  全速力で走っていなかったとしても、その事実だけで。……心臓が、痛い。 「浅水先輩……っ!」  プール場がフェンス越しに見えて、走る速度を緩める。プールサイドには誰もおらず、見学者用のベンチにすら、誰も座っていない。  暑さが原因で吹き出たはずの汗が、冷や汗のように感じる。言われなくても、分かってしまった。  ──水泳部の練習は、終わってしまったのだ。 「どうしよう……っ」  今日の約束は、午後から二人で図書館へ行くこと。……たった、それだけ。  水泳部の練習は『見に行けたら行く』と伝えただけで、明確な約束ではなかった。  だから、見られなくたってなにも問題は、ない。  ……ない、はずなのに。  プール場の周りに建てられたフェンスに、指をかける。  そこで、自分の目を疑った。 「……あ、れ?」  ──水面が、揺れたのだ。  風に揺れたとか、地震が起きたとかでもなく。プールの中心が、確かに揺れたのだ。  その振動は、表面からではなく。  ──下から、だった。  揺れた水面の真下から、一人の男性が突然頭を出す。 「──あっ!」  フェンスから手を離し、俺は急いでプールサイドへの入り口目掛けて走り出した。  水の底から顔を出したのは、肌を小麦色に焼かせた一人の生徒だ。その人は、見間違えることなんてできやしない。  ──俺の、大事な人に見えた。  プールの中央で、空を見上げている男子生徒に向かって、俺は大声で名前を呼んだ。 「──浅水先輩ッ!」  プール場に、声が響く。靴と靴下を脱いで、俺はプールサイドへと入った。  男子生徒は俺の方を、ゆっくりと振り返る。 「……やっ、お疲れさん」  口元を少しだけ緩めて、男子生徒──浅水先輩が、俺よりも低い声で返事をした。  俺を見つけて、笑ってくれたのは嬉しい。……だけど。  ──それ以上に、なによりも、胸が痛い。 「浅水先輩……っ。俺、練習に間に合わなくて……っ」  せっかく、浅水先輩が泳いでいるところを見るチャンスだったのに。  ……練習に間に合わなかったのは、事実なのだ。

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