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【千草と美藤(距離)】 *

◆表紙イラストの二人。  美藤(みふじ)は元来、ボディタッチの激しい男だ。  友人を呼ぶ時は肩を叩くし、父親や母親へハグをするのも日課のようなもの。  ……それは、千草(ちぐさ)に対してもそうだった。 「ん……っ、ふ、ふぁ……ッ」  正面から千草に抱き付き、一生懸命キスをする。  千草がどんなに冷ややかな表情でも、美藤は距離を開かない。 「んあ、は……ッ! セン、セ……ふかいぃ……ッ」  体を震わせる美藤の腰に手を添えて、千草が眉を寄せる。  美藤は更に強く、千草に抱き付く。 「腰落としてんのはてめぇだろ馬鹿」 「だって……センセの、きもちぃから……ッ」  美藤は今……ソファに座る千草の上に座り、秘所に逸物を咥え込ませていた。  ……勿論、千草の逸物だ。  千草が一瞬身じろぐだけで、美藤は慌てて抱き付き直す。  熱い逸物もしっかりと締め付け、片時も離れたくないと言いたげに。 「センセ……もっと、キスしたい……っ」  潤んだ瞳を閉じ、千草の返事も聞かずに唇を重ねる。  必死に唇を貪る美藤を、千草は至近距離で眺めた。 「ん、ん……っ」  くぐもった声を漏らし、腰を上下に揺らして快感を享受する美藤は、官能的だ。  余談ではあるが……千草は特段、ボディタッチが好きではなかった。  嫌いだと豪語するほどでもないが、美藤ほど貪欲に求めたりもしない。  ――が、わざわざこういう時に跳ね除けたりもしない男だった。 「ふぁ、あ……ッ!」  腰に回していた手を、千草は自身の腹に擦りつけられていた美藤の逸物へ伸ばす。  指先がほんの少し触れただけで、美藤は面白いくらいに反応した。  それでも美藤は、キスをやめない。 「んんっ、ん、ふ……ッ!」  逸物を上下に扱かれ、爪の先で先端を引っ掻かれても。  美藤はくぐもった声を漏らしながら、キスをし続けた。  そのまま腰を揺らす速度を上げて、美藤なりに千草へ快楽を与えようと尽力する。  すると不意に、美藤の後頭部が掴まれた。  ……千草の手だ。  それとほぼ同時に、美藤の口腔へ温かなものが差し込まれる。 「んんッ、んぅ……んッ!」  美藤の口腔を蹂躙するのは、千草の舌だ。  美藤は戸惑うも、頭を固定されているせいで逃げられない。  ――もとより、逃げるつもりはないが。  唾液の絡み合う音と、美藤が腰を打ち付ける音。  それと、千草の手によって美藤の逸物から生まれる淫猥な水音が、室内に響く。 「んっ、んん……ッ! ん、んぅッ!」  美藤がビクリと体を震わせると、それに呼応する様、千草の体も硬直する。  千草の腹部には温かな欲望が吐き出され、美藤の体内にも同様な熱が吐き出された。 「ふぁ、あぁ……っ、は……ッ」  唇を離すと、舌の先が唾液の糸を引く。  それはすぐに切れて、美藤は悲し気な表情を浮かべた。 「はぁ……っ、センセ……好きぃ……っ」  脱力した体をなんとか動かし、美藤は千草の首に腕を回す。  縋りつくように抱き付いた美藤は、切な気に甘い吐息を漏らしていた。 「今日は、このまま寝たい……センセ、ダメ……っ?」 「ダボが。駄目に決まってんだろ。風邪ひくぞ」  ソファにもたれかかり悪態を吐く千草へ、美藤が瞳を輝かせて抱き付き直す。 「えっ、嬉しい! ボクの心配してくれて――」 「俺がだ、馬鹿」 「酷い! でも好き!」 「知ってる」  全く離れる気配の無い美藤の肩を押して、千草が忌々し気に眉を顰める。 「離れろ馬鹿。冷える」 「ヤダ~! ボクがあっためるから問題ないでしょ!」  すぐ真横にある美藤の耳元へ向けて、千草は低く囁いた。 「一人でナカの処理すんのと、俺にやってもらうの……どっちがいいか今すぐ選べ」 「センセがいい!」 「じゃあ離れろ」 「分かった!」  さっきまでの倦怠感は、どこへいったのか……。  美藤は上機嫌で千草から降り、不機嫌そうな顔をしている恋人の腕を引く。 「お風呂でくっついてもいい?」 「駄目だ」 「ヤッター! ありがと、センセ! くっつく~!」 「人の話を聴け、馬鹿」  美藤は元来、ボディタッチの激しい男だ。  中でも、千草に対しては一際熱烈で……。  ……浴室へ移動する際、千草の腕に自らの腕を絡めるほどの、甘えたがりだった。 【千草と美藤(距離)】 了

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