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第24話 夜のはじまり

「するときの加賀谷さんは別人みたいです。そこが……少し怖いです」 「別人ね。それは自覚あるよ。晴之の反応を見てまずいと思った」 「でも加賀谷さんなら私を大切にしてくれるはずです。だから抱かれてもいいんです」 「それはどうかなあ。また自分の好きなように振る舞うかもしれないよ?」 「だって、昨夜は私のことを気遣ってくれました。躯も拭いてくれました」 「ああ。あれは、晴之に謝らなくてはいけないなあ」 「気にしてないです。よくわからなくてびっくりしただけです」 「やっぱり気づいてなかったか」 何のことだろう。 見つめ返していると、加賀谷さんは笑い出した。 「起きたとき、下半身が濡れていただろ?」 「はい。私が出したから……」 「あれ、俺の精液も混ざっていたんだよ」 「え、どういうことですか」 「眠ってる晴之の顔を見て、俺は抜いたんだ。で、晴之のあそこに、自分のをぶっかけた。ごめん、あまりにも寝顔がきれいなのでやってしまった」 私は何も言えなかった。 そんな清々しい顔で謝られても困る。 「どうやってやったか、教えてやるよ」 「いえ、いいです」 「遠慮するなよ」 抵抗する私を加賀谷さんは、ゆっくりと押し倒した。 「ほら、こうやって足を開いて晴之の躯を跨いだんだ。寝顔をじっと見つめて、色が白いなあ、まつげ長いなあって思いながら、扱いたんだよ」 顔が思ったより近い。 こんな至近距離で見つめられていたのか。 「『晴之、晴之』って言いながら、いっぱい擦ったんだ。こんなことになったのは晴之のせいだって思いながら、腰を揺らしたんだ。俺が勝手に勃起したのにな」 加賀谷さんが私を見ながら、自分のものを弄っていた。 そんな大胆なことをしていたのか。 信じられない。 「俺が出したとき晴之は躯を震わせたんだ。起きそうになったんだよ。覚えてるか」 首を振った。気づいたなら飛び起きている。 「あのときは焦ったよ。慌てて毛布をかけて晴之の頭を撫でたんだ。そしたら、また眠ったから安心したよ。それからずっと毛布ごと晴之を抱いていた」 「加賀谷さんが私を呼んでいたのは覚えてます」 「何度も謝っていたんだよ」 「全然わからなかった……そんなことしてたなんて」 考えただけで頬が熱い。自分がしたわけではないのに、恥ずかしくなった。 「お、顔が赤くなってきた。やっとわかったな。自分がオカズにされることが」 加賀谷さんはとても楽しそうだった。 どうして加賀谷さんは、いやらしいことでも堂々と言えるんだろう。私は顔に出さないようにするのがやっとだ。 「もうひとつ、謝りたいことがある」 怒るなよ、と言って加賀谷さんは私に軽くキスしてきた。 「風呂は壊れてない。晴之の部屋に泊まりたくて、嘘をついた」 「言ってくれたらよかったのに」 「言えないよ、下心丸出しだからな。俺は勇気のない狼なんだ」 「勇気がないんじゃなくてやさしいからです。私のことを考えてくれるから」 「そう思ってくれるならうれしいよ」 キスをしながら、加賀谷さんは私のネクタイを解いた。 「やらせてくださいって土下座すればよかった。今日も晴之のことを考えて、部屋でしちゃったよ」 「またしたんですか!」 「ああ、いっぱいした」 「加賀谷さんって、そんなことしない人だったと思ったのに」 「理想をぶち壊してごめんな」 加賀谷さんは、色気のある笑みを浮かべている。 このまなざしの奥に、荒々しい野性が潜んでいるのか。 物静かな人なのに、頭の中は私みたいに淫らなことでいっぱいなんだろうか。 「晴之のイク顔や寝顔を思い出したら、何度も勃ってくるんだよ。やばいなと思ったけど止まんなくてさ」 加賀谷さんはいつもより饒舌になっていた。 「晴之。俺のものにしていいか」 「はい」 「後悔はさせない。最高の夜にしてやる」 とうとう、抱かれるんだ。今夜は曇りで星は出ていない。理想とは全く違う。それでもよかった。 加賀谷さんとひとつになれるなら、どんな抱かれ方でもいい。 ふと、思いついた。ためらいながら口を開く。 「あの……加賀谷さん、もうひとつ気になることがあるんです」 「うん、言ってごらん」 「もし、いっしょになったら、私たちは今みたいな穏やかな感じにはならないんですか」 「それはないと思うよ。晴之はどんな風になると思っているんだ?」 「言えないです。変態って思われるから」 「思わないから、言ってみろ」 ん、と言って加賀谷さんは私を促した。 合図のように、私の額にキスをしてきた。 「あ、愛憎劇というか……肉欲にまみれたふたりになりそうです」 「肉欲! あはは……すごいな。なってみたいよ」 加賀谷さんはお腹を抱えて笑っている。だから言いたくなかった。でも、冷めた目で引かれるよりはましだ。

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