24 / 34
第24話 夜のはじまり
「するときの加賀谷さんは別人みたいです。そこが……少し怖いです」
「別人ね。それは自覚あるよ。晴之の反応を見てまずいと思った」
「でも加賀谷さんなら私を大切にしてくれるはずです。だから抱かれてもいいんです」
「それはどうかなあ。また自分の好きなように振る舞うかもしれないよ?」
「だって、昨夜は私のことを気遣ってくれました。躯も拭いてくれました」
「ああ。あれは、晴之に謝らなくてはいけないなあ」
「気にしてないです。よくわからなくてびっくりしただけです」
「やっぱり気づいてなかったか」
何のことだろう。
見つめ返していると、加賀谷さんは笑い出した。
「起きたとき、下半身が濡れていただろ?」
「はい。私が出したから……」
「あれ、俺の精液も混ざっていたんだよ」
「え、どういうことですか」
「眠ってる晴之の顔を見て、俺は抜いたんだ。で、晴之のあそこに、自分のをぶっかけた。ごめん、あまりにも寝顔がきれいなのでやってしまった」
私は何も言えなかった。
そんな清々しい顔で謝られても困る。
「どうやってやったか、教えてやるよ」
「いえ、いいです」
「遠慮するなよ」
抵抗する私を加賀谷さんは、ゆっくりと押し倒した。
「ほら、こうやって足を開いて晴之の躯を跨いだんだ。寝顔をじっと見つめて、色が白いなあ、まつげ長いなあって思いながら、扱いたんだよ」
顔が思ったより近い。
こんな至近距離で見つめられていたのか。
「『晴之、晴之』って言いながら、いっぱい擦ったんだ。こんなことになったのは晴之のせいだって思いながら、腰を揺らしたんだ。俺が勝手に勃起したのにな」
加賀谷さんが私を見ながら、自分のものを弄っていた。
そんな大胆なことをしていたのか。
信じられない。
「俺が出したとき晴之は躯を震わせたんだ。起きそうになったんだよ。覚えてるか」
首を振った。気づいたなら飛び起きている。
「あのときは焦ったよ。慌てて毛布をかけて晴之の頭を撫でたんだ。そしたら、また眠ったから安心したよ。それからずっと毛布ごと晴之を抱いていた」
「加賀谷さんが私を呼んでいたのは覚えてます」
「何度も謝っていたんだよ」
「全然わからなかった……そんなことしてたなんて」
考えただけで頬が熱い。自分がしたわけではないのに、恥ずかしくなった。
「お、顔が赤くなってきた。やっとわかったな。自分がオカズにされることが」
加賀谷さんはとても楽しそうだった。
どうして加賀谷さんは、いやらしいことでも堂々と言えるんだろう。私は顔に出さないようにするのがやっとだ。
「もうひとつ、謝りたいことがある」
怒るなよ、と言って加賀谷さんは私に軽くキスしてきた。
「風呂は壊れてない。晴之の部屋に泊まりたくて、嘘をついた」
「言ってくれたらよかったのに」
「言えないよ、下心丸出しだからな。俺は勇気のない狼なんだ」
「勇気がないんじゃなくてやさしいからです。私のことを考えてくれるから」
「そう思ってくれるならうれしいよ」
キスをしながら、加賀谷さんは私のネクタイを解いた。
「やらせてくださいって土下座すればよかった。今日も晴之のことを考えて、部屋でしちゃったよ」
「またしたんですか!」
「ああ、いっぱいした」
「加賀谷さんって、そんなことしない人だったと思ったのに」
「理想をぶち壊してごめんな」
加賀谷さんは、色気のある笑みを浮かべている。
このまなざしの奥に、荒々しい野性が潜んでいるのか。
物静かな人なのに、頭の中は私みたいに淫らなことでいっぱいなんだろうか。
「晴之のイク顔や寝顔を思い出したら、何度も勃ってくるんだよ。やばいなと思ったけど止まんなくてさ」
加賀谷さんはいつもより饒舌になっていた。
「晴之。俺のものにしていいか」
「はい」
「後悔はさせない。最高の夜にしてやる」
とうとう、抱かれるんだ。今夜は曇りで星は出ていない。理想とは全く違う。それでもよかった。
加賀谷さんとひとつになれるなら、どんな抱かれ方でもいい。
ふと、思いついた。ためらいながら口を開く。
「あの……加賀谷さん、もうひとつ気になることがあるんです」
「うん、言ってごらん」
「もし、いっしょになったら、私たちは今みたいな穏やかな感じにはならないんですか」
「それはないと思うよ。晴之はどんな風になると思っているんだ?」
「言えないです。変態って思われるから」
「思わないから、言ってみろ」
ん、と言って加賀谷さんは私を促した。
合図のように、私の額にキスをしてきた。
「あ、愛憎劇というか……肉欲にまみれたふたりになりそうです」
「肉欲! あはは……すごいな。なってみたいよ」
加賀谷さんはお腹を抱えて笑っている。だから言いたくなかった。でも、冷めた目で引かれるよりはましだ。
ともだちにシェアしよう!