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第9話
グラシーモの言葉に、オレは何を言われているのか分からず首を傾げた。
そこに映る酷く悲しそうな表情に、ぐっと胸が痛んだ。
ああ、そうか。
その表情の理由に思い当って、オレはグラシーモの肩に手を伸ばして、そっと掴み寄せた。
オレが生きるために、グラシーモの体液が生きるために必要なのではないのだとしたら、オレがグラシーモと一緒にいる必然性はなくなる。
そんなことを告げたとしたら、オレが逃げてしまうと思ったのだろうか。
いや、数か月前のオレだったら、きっとすぐに逃げただろう。
何ていうか……これで本当に魔王なのだろうか。
オレの中の魔王像はもっと極悪非道で冷徹残虐なモノであるが、グラシーモにはまったくそんな要素はない。
まるで世間知らずの金持ちのボンボンが迷子になっているかのようである。
「まあ、こんだけ何か月もオマエの精子を飲み続けてきたんだしさ……。オレの身体って、全部お前でできてるんだな。だから、もう、オレの全部はオマエのモンなんじゃねえの」
腹も括ったし、恩を返すとかそんな殊勝な気持ちでも、罪悪感からくるものではない。
この、どうしようもない迷子の魔王様をこのまま独りきりにさせてはいられないという気持ちでいっぱいなのだ。
グラシーモは信じられないようにオレを見返し、ぎゅっと強く抱き寄せる。
「いいから、オマエのモンにしちまえよ」
手に入れられないものは、どんな卑怯な手を使っても手に入れてしまえばいいと、オレはそんんな生き方をしてきた。
なのに、目の前にいるこの魔王はそれを放り出そうとする。
自分が折角手に入れたものだとしても、諦めてしまおうとするのがオレには気に入らない。
「……お主は顔に似合わず優しいのだな。逃げても捕まえるのは我には簡単なことなのだが……それでも、お主の心がとても嬉しいものだと思う」
きっとオレが逃げたとしても、グラシーモは追わないだろう。
そんな気がしたから、オレは腹がたったのだ。
ふわっと体が浮いて、寝室の扉が勝手に開いてグラシーモはオレの身体を買ったばかりのベッドへと降ろした。
「お主を永遠に我が伴侶としよう」
陰になって表情は良く見えないが、グラシーモはオレに満面の笑みを向けて見つめているような気がした。
グラシーモのように人の心を読むことはオレにはできないけど、こころからオレの言葉に喜んでいることが分かった。
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