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診断メーカー様より、お題をお借りしました。(樂塵煙×石迦)

樂塵煙と石迦のお話は 『手紙が届いた。差出人の名前はない』で始まり『本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った』で終わります。 ※お題は診断メーカー様よりお借りしました。ありがとうございました。 この作品には、一部、流血表現が含まれています。苦手な方はごめんなさい。 登場人物紹介: 梳 石迦(ソ・セキカ)・・・創作『六王記』に登場するキャラクター。 通り名は珋眀(リュウメイ)。狼国出身。 花穂(カスイ)の遠縁に当たる人物で、花穂が行った策への罰として、幼少の頃、一族を目の前で失った過去を持つ。その後、逃げるように生き延びていたが、行き倒れていた所を樂塵煙(ラクジンエン)に助けられる。その際、彼の血を飲むことで生き物の声が聞こえるようになった。 現在は、樂塵煙(ラクジンエン)の伝手を辿り、猪の国で保護を受けている。 樂塵煙(ラクジンエン)・・・その昔、鼠の国で縛につき刑を受けた謎多き僧侶。 四肢を斬り落とされて後、静かに眠るはずだったが、蝙蝠族の九十九(ツクモ)に助けられ今に至る。 失った四肢は医師団の力によって人工骨、ゼンマイ式の義手と義足を移植され、日常生活を送れるようになるまで回復した。 舞台・・『六王記』猪の国。 手紙が届いた。差出人の名前はない。 いつもいつも奇妙な時期になると送って来る一通の文。 その差出人が誰なのか、石迦(セキカ)は知っている。 「おや?文かい?珋眀(リュウメイ)」 「ええ。」 「誰から?」 「・・・・・」 上官の問いに石迦(セキカ)は答えようとしない。 それどころか、立ったまま乱暴な手つきで文の紐を解くとジッと文に目を通し始めた。 それまで彼の側で静かに見守っていた大蛇がゆるゆると動きながら、上官の方に視線を向けたまま黒々とした瞳を光らせている。 その表情は『例え上官であったとしても今この瞬間に入り込もうとするな』と主張しているかのようだった。 大蛇が彼の身体に絡み付く時は、決まって他者から彼を守ることを意味しており、それに習うように彼の肩にちょこんと座っていたネズミも同じように上官に視線を向けている。 「やれやれ・・またか」 けして低くない壁を前にして、上官は軽く息を吸い吐いた。 獲物を狙うかのように睨む獣を前にして、小言のひとつも言いたくなるというものだが、そんな事をしたとあっては問答無用で大蛇の牙が首へと回るだろう。 事実、彼に要らぬちょっかいをかけて怪我をした者がこの隊には存在しているのだ。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 しかし、この珋眀(リュウメイ)という男。なんとも奇妙な人物なのである。 王直属の副官たちから彼を頼むと任された時にはそうは思わなかった。 気まずそうに俯いて何も話そうとしない。 こちらから話しかけても素っ気なく愛想も無い。 それでも上官としての立場を優先した事が実を結び、返事だけは返してくれるようになった時には誰も見ていない場所で何度も万歳を繰り返した日が懐かしい。 打ち解けるまでかなりの時間を要したが、これで一歩前進できた。 やっと話が出来ると思った矢先にこれである。 何処から来たのか。いつのまにか彼の周囲をあらゆる動物たちが取り囲み、生きた壁を作るものだから側に寄ろうにも肝心の珋眀(リュウメイ)にまで、なかなかたどり着くことが出来ない。 それどころかこちらをギロリと睨み、近付くなと言わんばかりの眼力と開いた口で二度目の歓迎を受けた彼は、必要以上に彼には関わるまいと心に命じ、だがそれでも何とか・・と思いつつ会話を繰り返しては打ち返される日々を送っているのだ。 「・・・・・・」 本当に頭が痛い。 以前、演練でわずかではあるが席を外したことがあった。 用事を済まし戻ってみれば、いつ出会ったのか、虎が彼の側で寝そべっているではないか。 驚いたのはそれだけではない。心地良さそうに眠る虎を枕に珋眀(リュウメイ)まであどけない寝顔を見せながらすうすうと眠りこけている。 その光景を目にした瞬間、彼は腰を抜かしそうになった。 変わり者しかいないのだろうかという程に、この隊には問題児ばかりが送られてくる気がする。 そんな事を思いながら上官は手の平でクイッと丸い眼鏡を持ち上げると 「午後の演練は少し遅れる。余裕が出来次第来なさい」 とだけを言い残し部屋を出て行ってしまった。 パタンと閉じられる扉が生み出した静寂がひっそりと彼らを包み込む。 『もう、行ってしまわれましたよ。石迦(セキカ)』 「ああ。分かってる。すまない」 『文には何と?』 「師匠だ。いつもの情勢を知らせる報告と・・それから・・・」 そうまで言いかけて、彼は黙ってしまった。 表情の乏しい彼の整った眉が僅かに歪み、眉間に皺を生み出している。 その横顔を黙って眺めながら、大蛇とネズミは互いに顔を見合わせると瞳を閉じたまま彼の頬に黙って寄り添って行く。 ぺったりと張りつく大蛇特有の感触と、じんわりと広がる毛皮の温かさを直に感じながら石迦(セキカ)も同じように瞳を閉じた。 だがその表情は先ほどの強張った顔に比べると穏やかで、口角が僅かに上がっているようにも見える。 『ありがとう。何も言わずに私を慕ってくれて・・・』 そう話しながら、瞼の裏に浮かんだある人物の背中をふと思い出した。 飄々としていて掴み所が無い。相手を見ては態度を変える。 先ほどまで、へらへら笑っていたかと思えば次の瞬間には笑ってその腕を振り下ろす。 行動すべてが謎に満ちていて読むことすら難しい・・・。 けれど、何も無かったはずの自分に名前をくれた。 名はあるが使いたくないと黙っていた自分に「珋眀(リュウメイ)」という呼び名をくれた。離れていてもこうして時折、報告に織り交ぜながら私の身体を案じてくれる。 その中に僅かばかりのお金が同封されており、『この金で好きなものを買え』と添えて。 ふうと息を吐き、文の続きを読もうとした彼の瞳が急に見開き大きくなった。 「・・ぐっ・・・ぐふ・・っ・・げふっ・・・」 がくんと膝が折れ、口元を手で覆った瞬間、赤黒い血液が指の隙間を染めるようにぼたぼたと床に零れ、黒い染みをいくつもこしらえていく。 その様を見て 『石迦(セキカ)!』 二匹の言葉が瞬時に重なり、大蛇が彼の腹部を体で持ち上げた。 「・・・・がはっ・・うぐっ・・・」 『医師を呼びましょう。いいですね。石迦(セキカ)』 落ち着いた様子の大蛇の声に彼が黙って首を左右に振っている。 それを無視するように大蛇がネズミに目配せするや否や、彼は跳ねるように彼の身体を離れると疾走し、扉近くに設置された呼び鈴の紐にびょんと飛び乗った。 「やめっ・・やめろ・・しなくて・・いいっ・・」 『せきかぁ~・・・』 「いいっ・・だいじょ・・ぶふっ・・!」 溜まっていた血を吐いて楽になったのか。 ぜいぜいと荒く息を吐きながら胸に手を添える彼を見て、大蛇が 『午後の演練は中止にしましょう。石迦(セキカ)。この状態で行くのは得策ではありません』 と、優しく囁いている。 「いや・・もう・・大丈夫だ。もぅ、大丈夫。楽になった」 『・・・・・・・・』 大蛇は答えない。それどころか、疑いを持った眼差しで彼の顔を覗き込んでいる。 それを大丈夫と遮るように、石迦(セキカ)はやや疲れたような表情で大蛇を見た。 顔色は青白く、お世辞にも良くはなかったが表情は晴れやかで、どこかすっきりしたようにも見えた。 「大丈夫だ。次の戦にも出れる。戦って、戦って功績をあげる。そうじゃないと、師匠の命は果たせない」 『石迦(セキカ)・・・樂塵煙(ラクジンエン)殿はなにも本当にあなたに・・』 「ああ。分かってる。大丈夫。分かってるんだ。でも二重の恩を返すには、これしか、これしかないんだ」 大きく肩で息を吸い吐きながら、石迦(セキカ)は乱暴に口元を袖でぐいっと拭うと、にへへと悪戯っぽい笑みを浮かべながら大蛇を見た。 その表情に偽りのない彼を見たような気がして、大蛇は一瞬悲しげに目を伏せた。 彼の過去を詳しく聞こうとは思わない。けれど、ずっと彼の側に付き従う彼らは石迦(セキカ)の少しの変化にも敏感で、何かを察すれば即座に動く。 その為に居るのだと、彼らは常に思っているのだ。 『・・・まずは座りましょう・・いいですね・・・』 『呼び鈴、何度も鳴らしたぞ~!見て貰え!石迦(セキカ)!そして早く元気になれ!』 「ああ。ありがとう。演練前に見て貰う事にするよ」 そう話しながら、ぴょんとネズミはまた彼の肩へと勢いよく飛び乗り、石迦(セキカ)は荒く息を吐きながらその声に答えることにした。 その後、二十分を経過した頃に慌てた様子で医師が数名、小走りで彼の部屋を訪れ、カチャカチャと医療道具を取り出しているその様を眺めながら、彼は師匠がくれた文に書かれていたある言葉を思い出した。 その言葉を毎回目にする度、彼の心の何処かが鷲掴まれたようにぎゅっと苦しくなり、呼吸が出来なくなってしまう。 どこか気恥ずかしいようなくすぐったいような、遠い距離であるはずなのにとてもすぐ近くに居るような安堵感。 『・・・・けして無理をせんようにな。珋眀(リュウメイ)。離れていても、いつもお前の身を案じているよ』 「・・・っ・・・」 本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った。 終。

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