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BLACK
初めてこの部屋に来た時から、たぶん他に男がいるんだろうなぁと思ってた。
だけど俺は鈍感なフリをして、会ったその日にこの人に抱かれた。
職業は画家だとか、音楽プロデューサーだとか言って適当に誤魔化すような男なんてタイプじゃ無かったのに。前の男がキッチリしすぎていたせいかもしれない。
「オセロやろーぜ」
彼の一声で、いつもみたいに酒を飲みながらコタツに入ってオセロを始める。
なんでかこの人はめちゃくちゃ強くて、俺は勝てた試しがない。本当の職業はオセロのプロやってる人なんじゃないかな。
彼は黒、俺は白と毎回決まっていて、今日も最終的にオセロ盤の上はほぼ黒色になった。
「あー、なんか眠くなっちゃった」
コタツに丸まって目を閉じる彼。
寝息を立て始めたのを見計らい、俺は掛けてあったダッフルコートを着て、さっきひっくり返されまくったオセロの石をひとつポケットに入れて部屋を出た。
勝負する前から決めていた。
もしまた負けたら、もうこの人には会わないと。
勝てるとは思わなかった。いや、分からない。もしかしたら今日は奇跡が起こるかも、なんて一瞬考えたかもしれない。
公園のゴミ箱に、さっき持ってきたオセロの石を捨てた。
俺とオセロの石、消えた、と彼が気付くのはどちらが先だろう。
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