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第2話

 それは、いきなりだった。  何の構えもなく、無防備だったところをいきなり襲われた。そうでなければさすがにああも容易く好きにはされなかったはずだ。  キッチンで水を飲んでいたところを背後から飛び掛られその場に引き摺り倒された。手にしていたグラスが吹っ飛んでどこかにぶつかって割れる音がしたが、とてもそれを目で確認できる状況ではなかった。 「シュン!」  普段じゃれて飛びついてくるのとは明らかに違う暴力的な力に、強い制止を込めて名を呼ぶが、止まるどころか、首筋に鋭い牙を突き刺すという荒っぽい乱行によって返される。 「イッ…って!」  ぶつりと皮膚が破れ、血が流れ出す。  それをべろりと熱い舌が舐めとり、唸りに混ざった低い声が耳のすぐそばで発された。 「メスの匂いがする。くせえ」 「……い、きなり、なにしやがんだてめえは! どけよ!」 「酒くせえし、最悪だな」 「うるっせーよ! つか、どけって云ってんだろーが!! 重いんだよ!!」  主人に牙を剥いた駄犬はクククと喉の奥で哂ってみせた。 「……刑事のくせに危機感足んねえな。状況わかってる?」  こんな状況、分かりたくもない。 「いいからどけ!」  全身の力を腕に込めて押しやると、ふっとシュンの体が離れた。  が、次の瞬間、腹に強烈な一撃を食らって俺はその衝撃に胃の中のものをすべてその場にぶちまけた。  ただでさえ酔っ払って意識が酩酊し、力も萎えていたのに、そんな非人道的な真似をされた俺の体は意識を失わないまでも激しく嘔吐き咳き込んだ後、喘鳴してぐったりと力を失った。  俺の抵抗を奪うためにシュンは容赦の一欠けらも与えなかった。  反撃に出られるのを怖れてのことだろうが、……まるで追い詰められた獣そのものの非情さで俺を扱った。  吐瀉物で汚れた服をその場に引き裂いて捨て、ざっとタオルで拭われた俺は全裸でやつの部屋へ運ばれベッドに転がされた。  開きっぱなしのカーテンから、満月が煌々と俺とシュンを照らし出していた。 「――今更、俺を捨てようとするあんたが悪いんだ」  その意味を問い返す間もなく、……いや、与えられず、俺はやつに喰い尽くされた。

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