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第4話

「ホントに消える馬鹿がどこにいる」  腕組みをしてねめつけると、ヤツは胡坐をかいてそっぽを向く。そして小憎たらしくもふてぶてしい態度で口を開いた。 「……ここにいんだろ。なんで来んだよ。俺のことなんか放っておけばいいじゃん。出てけっていったのあんたじゃん」  いつものシュンだった。  人類の頂点に君臨する(しゅ)の末裔ではなく。  俺のよく見知った――生意気で、素直じゃなくて、……でも素直で寂しがりやの。  早とちりな馬鹿犬を、俺は思いきり睨んでドスを効かせた声を出す。 「このクソ餓鬼が。そう言われるようなことをやっといて開き直ってんじゃねぇよ」  そう言い、ついでに顎をしゃくる。 「さっさとそっから出てこい。胸糞悪ぃ。帰んぞ」  ――先ほどと同様、目には見えなかったが、ヤツの耳と尻尾がぴょんと勢いよく持ち上がったのが俺にははっきりと分かった。  シュンはαの始祖たる一族の末裔だ。  ……いや、実際のところどうなのか俺にはわからないが、ヤツの生家はそれを先祖代々信じてきた。  確かに、シュンには常人とは異なる強い力がある。  嘘か真か、はるか祖先には狼にメタモルフォーゼする者もいたとかいう話だ。  月の満ち欠けによって力は増減し、満月の夜にピークに達する。そして、狼にメタモルフォーゼするのだそうだ。  ……狼男か。  と、最初に俺がその話を聞いたときに漏らした呟きは、本家の人間に激しい反発をくらった。  あんな西洋の化け物と一緒にするな、という主張である。  あくまで自分たちは始祖の末裔であって、狼男などとは断じて違う、のだそうだ。  どこがどう違うんだか俺にはてんで分からない理屈だが、彼らは彼らのルーツに拘り、それを誇りに思っていることは分かった。  いずれにせよ俺にとってはどちらでもいい話だった(どうでもいいともいう)。  俺にも一応、その血は流れているのだが、俺はαではなくβだ。シュンのような異能があるわけでもなく、そもそも両親そろって事故で死ぬまでは本家とは関わりを断った生活を送っており、事情をほとんど知らずに育ったのだ。  両親の死を切っ掛けに、俺は本家と再び縁を持ち、――そして、そこでシュンと出会った。  シュンは、最近ではめったにないほどの特異力を大きくその身に受け継いで生まれてきた。  いわゆる先祖返りというやつで、メタモルフォーゼこそしないものの、満月の夜には常人とは比べものにならない俊敏さと力を発揮し、視力も嗅覚も異様に鋭くなった。あらゆる身体能力が、人とは明確に異なるポテンシャルまで跳ね上がるのだ。

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