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第5話
シュンは、αの中でも特別なαだった。
時は流れ、時代は移ろい変遷し、血も次第に薄くなり、ほとんど顕在化されなくなった始祖の力を、彼は驚くほどに色濃くその身に宿していた。
だが、現代までかろうじてほそぼそと血を受け継いできた始祖の一族は、それを僥倖とはとらなかった。
――過ぎたる力は害になる。
そう考えた本家は、シュンを隔離し、そこに封じた。
まるで化け物を処するように。
俺は何も知らず、本家で行われた両親の葬儀の夜、座敷牢を抜け出したシュンと出会った。――折りしも、満月の夜だった。
そして、すったもんだの末、あいつを引取ることになるのである。
「よく本家の奴らが素直にあんたを奥まで通したよな」
「まぁな、初っ端はここにはいないだなんだとごねてたが、『拉致監禁罪で逮捕する』って警察手帳出したら道開けた。桜田門様々だ。刑事になってよかった」
「あくど…。それ、職権濫用じゃん。不良警官め」
「どこが。監禁してたのは本当だろうが。後ろ暗いことやってりゃ脅されたってしゃーないわな」
帰り道。
何事もなかったかのように並んで歩く。
出会った頃は胸の辺りまでしかなかった頭が、今では俺の身長すら越えそうな位置にある。
(でかくなったなぁ…)
あんなことがあった後だからだろうか、妙に感慨深い。
すっきりとした彫の深い顔立ち、鈍い光沢を放つダークグレーの髪、光が当たると琥珀に輝く瞳、どちらかといえばキツイ目鼻立ちだが、年齢ゆえか頬や口元の辺りに甘さがある。言動はともかく、しなやかでどこかしら品のある立ち居振る舞いが人目を引く。それもそうか。なにせ血統書付きのα様だ。
骨格はまだ少年の域を脱していないが、数年もすれば自分と同じくらいのしっかりした体格に成長しそうな兆しがすでに現われ始めていた。腰の位置が高く、手足が長い。
(この細っこい体に組み敷かれたのか……)
不甲斐ないと己を嘆くよりも、見かけとは異なるその肉体の強靭さに驚きを禁じえない。どんな抗いもその力の前ではすべて無駄な足掻きと化した。
昨夜のことを具体的に思い出しそうになって俺は慌てて意識を切り変えた。
そういえば最近忙しさにかまけてこんな風にゆっくり話すことも、肩を並べることもなかった。
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