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第1話 ②

 どうしたらいいのかな。  僕はそろそろ敷地を出たであろう世那を思った。この窓の良くないところをあげるならばたったひとつ、中庭と空しか見えないこと。僕がこの家の中だけの存在であるために、あえてこの部屋があてがわれているのは知っている。けれども時折思うのだ。玄関の側が見られたらいいのにと。そうしたら毎朝世那を見送って、帰ってくる世那を待つことができる。  そうしたらもっと僕は世那のことが分かって、世那との距離をあける何かも思いつくかもしれない。今の世那と同じ態度を取るのもありだけど、それではただ単純に嫌い合うだけの関係になってしまう。  厳しくしつけをされて何でもやらされて、苦手なことは克服させられ、できることはもっとと促され、細やかな管理のもとで育てられた世那。小さな頃から怒られることもなく嫌なことをさせられることもなく、大事に大事に育てられた僕。  世那の嫌いは、そういう背景をもとに芽を出した気持ちが少し成長しただけ。僕自身を嫌ってはいない。世那もたぶん、ずっと前からそれに気づいているのだろう。だからか最近では、その迷う気持ちが視線となって現れる。  そんな世那だから、僕との本当の関係を知ってしまえば後悔する。自分を責めるかもしれない。そんなことを考える隙間がないくらいに複雑に、こじれてぐちゃぐちゃに僕を嫌ってほしい。  そう思うのに今の僕は、ほとんど何もしていない。手段を思いつかないわけじゃなく、思いついた端からそれらに目隠しをしてしまうのだ。    心の奥底に、消えない願いがあるから。  世那に覚えていてほしい。嫌いとは違う感情で、ほんの片隅、たまにでいい。僕がいなくなった時、世那がなった時、五年に一回、十年に一回でいいから思い出してくれるくらいには、僕の居場所を世那の中に作ってほしい。  そんな仕様もない気持ちが、僕の中にあるからだ。だからいつだって、どうしようかと始まるこの問答に終わりは訪れない。  ごめんね。  ぼくは窓際に頭を寄せて目を閉じる。決して口には出すことはない、これこそ仕様のない謝罪を心の中で呟いた。  体温血圧エトセトラ。測定して結果を送って、適度な運動を。世那は知らないけれど、健康管理だけは僕の方が厳しくされている。もう少しこうしてから、日課に取りかかるとしよう。    敏感になった耳が、風の声も鳥の声も、草花がささやく内緒話まで集めていく。静寂ではない静けさは好きだ。世那もこういうことを思ったりするのだろうか。いつも人に囲まれているから、そんなことはないのかな。  同じだったら嬉しい。けれどそれは良くない。心と頭は反対の感想を抱いて、世那のことをあれこれ言えないくらい、僕はコピーとしてまだまだだなと思った。

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