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3ー9
【克樹side】
『つくづく、甘いな』と奈箆に怒られそうだけど、困っている者が居るなら手を差し伸べてあげるのも酔狂だと思うんだ。
苦手なタイプの男を手助けとか自分でも笑える。でも、彼の瞳が真剣な色合いをしていた。
俺にも馴染みのある色。
男として腹をくくった証…。
「ふふふっ…深李様が何故、若君を選んだのかも解りましたよ…」
クスクスっと微笑い、黒い瞳を細めた彼は深李さんを見た。
「あぁ、今更…解ったのか」
「私とした事が…見えていなかったなんて。志龍様に仕えているのに気付かなかった。あざといですね、深李様…」
「…別に。俺は俺だし」
テーブルに置かれてあった湯呑みを手に取り、口へ運ぶ深李さん。天然な部分しか常々拝んでいないから、こんな感じの雰囲気を纏っているのは不思議だ。
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