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『自分だけの物にしたい』
そう思ったのは、いつの頃からだったろう?
それに近い感情が恋と呼ばれるものだと、聖一が気づくまでにそう時間はかからなかった。側にいるだけで触れたくなるし、くっついて眠れば欲情だってする。頭の中は常に貴司で一杯になっていて、金曜日だけじゃなく、いつでも彼と一緒にいたいと望むようになっていった。
抱き締めるだけでは足りず、邪(よこしま)な思いを胸へと抱きながらも、貴司に手を出さなかったのはそれだけ大切だったから。
貴司のことは興信所に全て調べさせていて、これまで彼に女性の影が一切なかったという結果に、暗い喜びを抱いた時から、聖一の中で何かがおかしくなり始めてしまったのだ。男同士の恋愛など受け入れられるはずもなく、それを告げて嫌われるのが何より一番怖かった。怖いという感情を知ったのも、貴司を好きになってからだ。
学校にはもうセックスを済ませている同級生が数人いて、聖一も例に漏れず中学一年生の夏に経験は済ませていた。自分の容姿が優れているのは幼い頃から知っていたし、薄い笑みを唇へと乗せれば一晩だけの遊びの相手に困ることもない。
貴司には決して見せられない、もう一人の自分の姿は、彼にぶつけることのできない欲望を、吐き出すために必要なものだった。
その均衡が崩れ去ったのは……中学二年の誕生日前。
いつものように遊びに出かけた隣街の繁華街で、偶然、視線の端へと貴司の姿が映り込んだ。隣を歩く女にせがまれ、その頬へ軽くキスをした瞬間のことだった。
走り去ってしまう直前、悲しげに歪んだ貴司の表情が今も忘れられない。
無意識に走って追い掛けたけれど、今行って貴司と二人になってしまえば、自分を抑えることは出来ないと頭の中で判断すると、聖一は動きを止めた。そして、不安な気持ちを抱えながらも、彼に気持ちを伝えたのが十四才の誕生日。
初めて口へとキスをしたのも、貴司とが初めてだった。その時貰った腕時計は、今も大切な宝物だ。
優しい貴司が自分を傷付けないように、気を使ってくれていたことも、さりげなく離れようとしていたことも、知っていたけれど諦めることは出来なかった。
大学を卒業する時、『一年後、必ずセイに会いに来る』と、言い残した貴司だけれど、いくら待っても姿を見せてはくれなかった。
予想はしていたことだけど、その事実は想像以上に苦しくて。
感情を持て余し、当時知り合った浩也と共にかなり際どい遊びをしたが、体の猛りはその一時は納めることができたけど、心は全く安定しない。北井浩也は年下だが、どこか自分と通じていて……深い話はしなかったけれど、それなりに心を許せる存在だった。
表面的には優等生を演じながら、足りない物を別のところで埋めようとしていたのだが、どんなに遊びで憂さを晴らしても貴司への執着は募っていく一方で、貴司のためにも彼のことは諦めようと思っていたのに、そんな気持ちさえいつの間にか綺麗に消えてしまっていた。そして、それが自分の我が儘だということは分かっていたのだが、気持ちを留めることもできず、初めて欲しいと望んだ存在を手に入れようと心に決める。
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