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 貴司には常に見張りを付けて行動を把握していたから、彼に女が出来たことも、その女に騙されていることも聖一には分かっていた。その上で、彼の動きを予測して、タイミングを見計らい、緻密に練った計画を実行へと移したのだ。  結果、全ては自分の考え通りに動きだし、多少の無理はしたけれど、思惑通り聖一は貴司を手に入れることに成功した。  上手くいったと思っていた。貴司をようやく手に入れることが出来たのだ……と。  彼の気持ちが自分と同じじゃないことは理解していたが、貴司の弱さや優しさに、付け込んででも一緒にいて欲しかった。聖一にはどうしても、貴司が必要だったのだ。  付き合ってからも常に不安で、そんな感情が自分の中にあったことすら知らずにいたから、まるでそれを埋めるかのように、会う度彼を貪った。拒否しない彼の心の中は知りようもなかったけれど、繋がっている現実さえあればそれで充分だった。  このまま、続けていけると思っていた。  想う気持ちが強過ぎて、彼を閉じ込める結果となってしまうまでは。  バサバサと木立の揺れる音がして、思いに耽っていた聖一は暗い空を振り仰ぐ。気づかぬ内に夜も深くなり、濃く立ち込めた雲からは、今にも雫が落ちてきそうな雰囲気だった。 「……可哀相な貴司」  あの時自分に手を差し延べさえしなければ、追われなくて済んだのに。 「でも……もう遅い」  呟く声は強くなってきた風の音に立ち消える。  出会った頃、いつも見せていた儚げで優しい微笑みは……好きだと告げたその瞬間から困惑の色を滲ませた。そんなことは分かっていたが、どうすればいいのか分からなかった。繋がっている時間だけは、唯一自分を無心に求めてくる彼が、いつか離れていってしまうのが本当はとても怖かった。  掴まえて、閉じ込めて、ようやく安心出来たのに、今までにない強い拒絶を貴司は自分へ示してきた。初めて受けた抵抗に聖一はすごく驚いたけれど、それより大きな虚無感に、一瞬にして支配された。恋しくて、愛して止まない恋人は、自分のことを求めていない。ならば、自分だけを思うように創り変えてしまえばいい。  他の男に抱かせるのは本意ではなかったけれど、思惑通り恐怖と快楽に溺れた貴司は、いつも最後には聖一だけを求めてきた。  例え狂っていようとも、彼を繋ぎ止めるためならば何をしたって構わない。こんなに深い感情を、自分に教えてくれたのは……他でもない、貴司本人なのだから。 「貴方は俺に、『別れる』って言ってない」  長い時間、揺らしていたブランコから立ち上がると、聖一の頬へ雫がポツリと落ちてきた。端から見れば涙のように、それは顎へと伝っていく。 「掴まえるよ。絶対に……何があっても」  段々強まる雨の中、歩き始めた聖一は……誓いを立てるようにそっと、右手首に嵌められている腕時計へとキスを落とした。

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